最新記事
アフガニスタン「遺体記念写真」が暴動を呼ばない理由
死んだタリバン兵を侮辱するような米兵の写真が暴露されても反米デモが起こらないのは、タリバンの暴虐ぶりもよく知られているからだ
地獄の果て アフガニスタンを守るのが米兵の任務だが Shamil Zhumatov-Reuters
当然のことながら、アフガニスタンの人々が怒りをあらわにしている。だがその反応は、思いのほか抑制的だ。
4月18日付の米ロサンゼルス・タイムズ紙に衝撃的な写真が掲載された。自爆したイスラム原理主義勢力タリバンの戦闘員とみられる遺体の横で、アフガニスタン駐留米軍の兵士がポーズを取っている。アフガニスタンのカルザイ大統領は強い不快感を示し、米軍は反米感情の高まりを懸念して駐留部隊の警護を強化したが、大きな暴動は起きていない。タリバンは「恥ずべき暴挙」を非難する短い声明を出すにとどまっている。
一部のタリバン高官は怒りより不安を覚えている。タリバン内部の強硬派が、今回の写真を口実にアメリカ側との交渉に反対する恐れがあるからだ。
国民の間で米兵への反感が高まらなかった理由は、タリバンの手も血で汚れているからだ。ほとんどのアフガン人は写真に不快感を示してはいるが、タリバンへの同情や反米デモにはつながっていない。
「遺体への侮辱は人類全体への侮辱」だが「タリバンも罪のない民間人を虐殺している」とイスラム教指導者マウルビ・アブドゥラ・アビドは言う。「過去10年間、アメリカもNATOもタリバンも、罪のない人々にひどい仕打ちをしてきた。悲劇を招いた責任はどちらにもある」
タリバンの暴虐ぶりは米兵たちによる「記念撮影」の比ではないと、アフガン兵ジュマ・カーンは言う。「自爆テロで罪のない人々が50人は死ぬ。タリバンはアフガン兵の首をはね、息のあるうちに手足を切り落としさえする。コーラン焼却事件や米軍が民間人を殺していることには心を痛めているが、テロリストには同情しない」
そうはいってもアメリカのイメージがさらに傷ついたことには変わりない。「タリバンかどうかに関係なく、アフガン人の遺体と記念撮影すればアフガン人の心証を害する」とパキスタンに留学中のアフガン人学生アフマド・ファリドは言う。
「あんな写真を見せられたら、アメリカに人間の価値や人権や戦争のルールを守ることを論じる資格があるとは思えない」
写真はアフガニスタン駐留米軍の傲慢さと規律の欠如を物語っている。そんな考え方では和平に向けた取り組みの足を引っ張るだけだ。
[2012年5月 2日号掲載]