「ビルマの春」は早過ぎる?
経済制裁解除をにらんで
同じ頃、カナダのジョン・ベアード外相もスー・チーを訪ねた。ウィリアム・ヘイグ英外相、ヒラリー・クリントン米国務長官らに続く訪問だ。ベアードは訪問前にテイン・セインとも会談しており、補欠選が自由かつ公正に実施されることを大いに期待していると語った。
問題は、ビルマに対する経済制裁がいつ解除されるかだ。スー・チーは自由で公正な選挙の実施が制裁解除の目安としている。スー・チーは20年間近くビルマへの観光に対する制裁措置を強く求めていたが、既に観光客を歓迎する意向を表明している。彼女が自宅軟禁を解かれて以来、ビルマを訪れる観光客は急増。ホテルも航空機も予約で満杯のところが多い。
観光客だけではなくビジネスマンも、世界中からビルマに押し寄せている。制裁解除がささやかれるなか、あらゆる分野の目ざとい連中がハゲタカのようにラングーン周辺をうろついている。市内有数の高級ホテルのロビーでは下見に来たというスイス人投資家が「ぐずぐずしていたらビルマが食いつぶされてしまう」と語った。
国内外のビルマ人の多くが、ビルマへの投資ラッシュは、脆弱なラングーンとビルマの経済に悪影響を及ぼすと懸念している。「一連の改革は無計画で、あまりに性急に進められている」とある欧米人外交官は言う。「生活水準が上がるのはいいが、経済とインフラが崩壊する危険性が高い」。外国からの投資が殺到し、ビルマ人が投資する余地がほとんどなくなるのではないかとの懸念もある。「変化のペースが速過ぎると思う」とこの外交官は言う。
ラングーンでは初めて通りを車が行き交っている。3カ月前まで市民が目にしたことのなかった光景だ。制裁解除の臆測を受けて不動産価格も急騰。ビルマ人が先を争って土地に投資する結果、地価は今やタイの首都バンコクを上回っている(外国人の投資も増えている)。ある不動産業者の話では「本物の市場ではないかもしれないが、当面は下落しないはずだ」。
自由を満喫する市民たち
ビルマ人も外国人も制裁解除を期待しているが、長く軍事政権と闘ってきた人々の多くは時期尚早だと感じている。NLDのサンダー・ミン候補は、補欠選が自由かつ公正に行われても制裁解除の目安にはならないと主張する。来月1日に争われる45議席すべてをNLDが勝ち取ったとしても、まだ不十分だという(全48議席中、残り3議席は選挙が延期された)。「国際社会は15年の総選挙まで待つべきだ。NLDが全議席を自由に争うことができたら、そのときこそ晴れて制裁を解除できる」
それでも、変化は感じられると、サンダー・ミンは言う。07年の反政府デモ「サフラン革命」に関与したとして5年間投獄され、今年1月に釈放されたときには人々の考え方が大きく変わっていたという。
「みんなもう恐れていない。私が投獄される前は誰もがびくびくしていた」と、サンダー・ミンはラングーン市内の自宅で語った。「今はどこで政治の話をしても逮捕される心配はない。以前はスー・チーの話をするだけですぐ逮捕された。今はみんな喜びをかみしめている」