最新記事

債務危機

仏国債格下げでサルコジ「撃沈」

2012年2月22日(水)14時48分
トレーシー・マクニコル(パリ)

 最近の世論調査では、回答者の68%が格下げはサルコジの失策だと答えた。格下げ前に行われた別の調査でも、サルコジの支持率は過去最低レベルの30%に落ち込んでいる。再選を目指す大統領の中で、歴史上最も不人気という調査結果もある。

 大統領選の第1回投票まで100日の時点で、失業率は99年以降で最悪となり、さらに悪化し続けている。サルコジとオランドのどちらかを選ぶ形式の世論調査では、43%対57%でオランドに大きくリードされている。

 再選の見通しに暗雲が立ち込めてきたサルコジにとって、もう1つの懸念材料は極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が今回の格下げを利用して支持を伸ばすことだ。反ユーロを掲げる保護主義者のルペンは、国民戦線の創設者だった父ジャンマリ・ルペン以上に大衆受けのいい政治家で、サルコジに幻滅した労働者階級の票を狙っている。

 サルコジはドイツのアンゲラ・メルケル首相との「メルコジ」コンビでEUの意思決定をリードしているが、実際はメルケルの尻に敷かれている──そんな話が出るたびに、ルペンはフランスの国家主権を守れと遊説で訴えることができる。

 サルコジは改革派を標榜しているが、市場の評価が高いのはむしろドイツのほう。フランスで遅れが目立つ抜本的な構造改革を着実に進めているからだ。ロンドンのシンクタンク、欧州改革センターは「EUの歴史上初めて、ドイツが明確なリーダーになり、フランスは2番手になった」と指摘した。

極右勢力が波乱要因に

 今のところ与党UMPは、国家主権を叫ぶ国民戦線の政府批判に対抗するため、国民の分断を招きかねない反移民の愛国主義的主張を強めている。サルコジが当選した07年の大統領選では、この戦術が功を奏した。だが4月の第1回投票を想定して格下げ前に行われた世論調査では、サルコジとルペンの支持率の差は2%しかない(23・5%対21・5%)。

 ルペンが大統領選に勝つ見込みはない。それでも02年、社会党候補のリオネル・ジョスパン首相を第1回投票で敗退に追い込んだ父親と同様の波乱要因になる可能性はある。S&Pがドイツ国債の格付けをトリプルAに据え置き、フランスとの扱いの差をはっきりさせたことを、ルペンも(市場も)決して見逃さないはずだ。

 とはいえ、サルコジのライバルたちは他人の不幸を喜んでいる場合ではない。フランスの国家財政は74年からずっと赤字が続き、手厚過ぎる社会福祉制度の見直しには根強い抵抗がある。さらにフランスの銀行業界はギリシャやイタリアの債務に対し、大きなリスクを抱えている。こうした構造的な問題はフランスの将来をむしばみ、次の指導者の手を縛る。

 5月の新大統領就任式に臨むのがサルコジにせよ別の誰かにせよ、問題は一朝一夕には解決できない。S&Pは13日の格下げ発表の際、次のように警告した。「今年または来年に再び格付けを引き下げる可能性は、少なくとも3分の1程度ある」

[2012年2月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中