マンUを破ったオイルマネー
しかし、こうしたアメリカ人富豪の資産は数十億ドル程度でしかない。一方で、プレミアリーグのチェルシーを所有するロシアの石油富豪ロマン・アブラモビッチの資産は推定212億ドルと桁違い。マンスールの個人資産は360億ドルに上る(このほかに投資ファンドの運用資産が何十億ドルもある)。
噂によると、グレーザー家はマンUの株式をシンガポール市場で上場させて資金を集めようと考えているらしい。今年に入って、カタールの投資家グループがマンUを買収するという噂が流れたこともあった。新しい世界経済の基準に照らすと、グレーザー家の資金力は、プレミアリーグのクラブを勝たせ続けるには十分でないのだ。
しかし、スポーツの勝利を本当にカネで買えるのか。「カネがすべてではない」と、カールソンは言う。「大リーグで選手の年俸総額が最も高いのはヤンキースとフィリーズだが、いずれも今年のワールドシリーズ出場を逃した」
次は中国人かインド人
この点は、シティーが直面している課題にほかならない。マンスールが経営権を握ってからの3年で、監督は早くも2人目。ほかのクラブのスター選手を巨額のカネで引き抜いては、期待どおりの活躍をしないとあっさり放出するというパターンを繰り返している。
こうしたやり方は、ファンの間ですこぶる評判が悪い。アダム・ハワードというファンはブログでこう書いた。「シティーは、選手の移籍市場を破壊し、選手がクラブに忠誠心を抱く時代を終わらせようとしているだけではない。カネで成功を買おうと突き進み、サッカーの質と精神を二の次にしただけでもない。シティーは、選手のキャリアまでぶち壊しつつある」
長年のシティー・ファンも戸惑っている。「莫大なカネが入ってきたのは分かっているが、勝てるようになったのがまだ不思議な気分だ」と、ファンのロブ・ミンシュルは言う。
しかしどのクラブを応援するにせよ、イギリスのサッカーファンは、外国マネーがクラブの成績を大きく左右する状況に慣れるしかない。
自分が応援しているミドルズブラがプレミアリーグで優勝することはあり得ないと、チャドウィックは分かっている。ミドルズブラのオーナーはイギリス人のホテル経営者で、資産はチェルシーのロシア人オーナー、アブラモビッチが所有する超豪華ヨットの価値より少ない。
「21世紀のスポーツ界は、アジアの世紀」だと、チャドウィックは言う。上海やインドのムンバイの大富豪がプレミアリーグのクラブを買収するのは、時間の問題かもしれない。
[2011年11月16日号掲載]