最新記事

中東

リビア崩壊が世界景気の起爆剤に?

カダフィが倒れれば原油価格が下がり、欧米の消費を大いに刺激するはず

2011年8月23日(火)17時30分
トーマス・ムチャ

期待大 反体制派の勝利は世界経済の勝利かも(8月22日、トリポリ) Esam Al-Fetori-Reuters

 反体制派がリビアの首都トリポリをほぼ制圧し、ムアマル・カダフィ大佐の退陣を求める国際社会の圧力は高まる一方。40年以上に渡ってリビアを支配してきたカダフィ政権に、いよいよ最期の時が迫っているようだ。

 後継者問題から欧米の政治経済に与える影響まで波紋の大きさは計り知れないが、中でも最も影響を受けるのは経済分野かもしれない。その原因はリビアに眠る原油だ。

 リビアは世界17位の産油国であり、内紛が終結すれば生産高が急増すると期待する声もある。そうなれば原油価格が下落し、ひいては世界最大の経済大国アメリカにおけるガソリン価格も下がる──。つまり、カダフィ政権の崩壊は、アメリカ人に大型の減税と同じ効果をもたらすわけだ。

 投資顧問会社カンバーランド・アドバイザーズのデービッド・コトク会長は、経済ニュースサイト「ビジネス・インサイダー」で次のように論じている。


 リビアの原油生産量は増加するだろう。そうなれば市場の原油価格は下落し、先物価格にもリビアの増産が織り込まれる。リビアの良質のスウィート原油の生産が完全に再開されて市場に流通するようになれば、原油価格の大幅な下落もあるかもしれない。これこそ、アメリカをはじめとする世界各国の経済が必要としている起爆剤だ。

 原油価格は費税のような存在だ。わかりやすくするために、原油価格をガソリン価格に置き換え、その変動がアメリカの消費者に与える影響を試算してみよう。ガソリン価格が1ガロン当たり1セント下がると、アメリカ人がガソリン以外の消費に向けられる可処分所得は年間ざっと14億ドル費える。

 経済にとっては非常に大きな刺激だ。ガソリン税率がアメリカよりずっと高いヨーロッパではそこまでの影響はないが、それでも効果は大きい。

 ガソリン価格の引き下げが今ほど必要な時はない。先進国全体の経済が停滞する中、割高な原油価格という「税」負担が軽減されれば、願ってもない景気のけん引役となる。アメリカでは数カ月前に1ガロン当たり4ドル台だったガソリン価格が、2ドル台になる可能性もある。アメリカ経済にとっては前向きな変化であり、今伝えられている悲観的な経済予測には盛り込まれていない要素だ。

市場に流通するまでに1年はかかる

 もちろん、こんなバラ色の未来を信じる人ばかりではない。

 欧州の原油取引の指標となる「北海ブレント原油先物価格が下落したのは、単なる条件反射的な反応だと思う」とCNNマネーに語ったのは、原油取引に25年間携わり、石油価格に関する著書もあるダン・ディッカー。彼に言わせれば、リビア産の原油が市場に流通するのはずっと先の話だ。「リビアの石油が出回るまでに少なくとも1年はかかる」

 グローバルエネルギー研究センター(ロンドン)の上級石油アナリスト、マヌーチェフル・タキンもCNNマネーに対し、リビアの原油生産再開は徐々にしか進まない可能性が高いと語っている。「リビアの石油生産インフラの状態は今もよくわかっていない。生産再開の足を引っ張る未知の要素があるかもしれない」
 
GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中