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環境「非エコ企業」が儲ける排出取引の矛盾
インドには、一方で環境汚染で深刻な被害を引き起こしながら他方で炭素クレジットで大儲けする企業がある
垂れ流し ごみ処理場の煙突から立ち上る煤煙(インド北部) Ajay Verma-Reuters
エコとは言えない企業が「エコ商品」で儲けまくる──かつて経済合理性を生かした環境対策として注目された排出権取引が、そんな皮肉な状況を生んでいることが明らかになってきた。
インド南部タミルナド州に拠点を置く化学品会社ケムプラスト・サンマーがいい例だ。数十年前から冷媒ガスや溶剤、ポリ塩化ビニルを生産してきたが、実はもう1つ目に見えない「商品」がある。炭素クレジットだ。
これは温室効果ガスの削減量を示す取引単位で、1単位はCO2排出量1トン分に相当する。欧米の企業は排出量の基準を守るために、主に途上国の企業が削減した分を買い取って補う。その取引額は世界で数千億㌦規模に拡大。ケムプラストだけでも年間1000万ドルに達する。
しかしこれは、エコではない企業を甘やかす制度だと批判する声もある。今でこそケムプラストはクリーン操業が売りだが、長年にわたって工場排水を川に垂れ流していた。09年9月以降は1滴も排水を出していないと胸を張るが、活動家らの調査によれば、少なくとも04年から放出停止を当局から迫られていた。
09年には川に流された排水から発癌性の塩化ビニルが検出。04年と07年には塩素ガス漏れもあった。地元では同社のせいで水と大気が汚染され、呼吸器系疾患や発疹、死産を経験した者もいるとの話が広まっている。
もっとも、こうした問題は炭素クレジット集めに何ら影響しない。ケムプラストは07年以来、冷媒ガスの副産物HFC─23を焼却処理して炭素クレジットを稼いできた。HFC─23の温室効果係数は、CO2の実に1万1700倍。今や炭素クレジットで稼ぐ金額は冷媒ガスの売り上げの倍近くに達する。
しかし環境に悪影響を及ぼす冷媒ガスの生産活動で儲けることが問題視され、欧州では13年5月以降、HFC─23の処理に炭素クレジットを与えることを認めないことになった。
とはいえ今後も、エコとは言い難い企業が炭素クレジットで儲ける図式はなくなりそうにない。08年にケムプラストから5年契約で320万単位の炭素クレジットを買い取った大手証券会社系の会社は、それを欧米の化学会社に転売。この化学会社は自社の排出量をより高い値で売り、結局は利益を上げた。
こうした動きに歯止めをかけるには相当な知恵が必要だ。
[2011年6月 8日号掲載]