ドイツの「脱原発」実験は成功するか
とはいえ、この計画を実現させるには、電力網の拡大や、電力の需給を自律的に調整できる送電網「スマートグリッド」の導入といったインフラの抜本的な見直しを迅速に行う必要があると、専門家は指摘する。風力などの発電施設を大量に新設する際に予想される「うちの近所には作るな」という反発にも備えなければならない。
当然ながら、電気料金が上昇する可能性への懸念も浮上している。新たなインフラと火力発電所を整備するために、一定の値上げが必要なことは、政府も認めている。
政治的動機に駆られた拙速な判断との批判も
問題は、電気料金の値上げがドイツ経済に与える影響だ。ドイツ経済は、自動車や機械といったドイツの代表的な工業製品を製造する巨大な工場に支えられており、膨大なエネルギーを必要としている。
政府はエネルギー需要の大きい業界に対し、電気代上昇の埋め合わせとして5億ユーロを拠出するとしているが、連立与党の一角をなす産業界寄りの自由民主党からはあまりに小規模な支援だと非難の声も上がっている。
自然エネルギーへの移行に長い時間と柔軟性を求めていた産業界は、2022年までに原発を全停止させるという杓子定規な計画に愕然としている。
ドイツ産業連盟のハンス・ペーター・カイテル会長は、政治的な都合で脱原発を急ぐ政府のやり方は、ドイツのエネルギー供給や温室効果ガスの削減目標、経済成長や雇用を危険にさらすと指摘する。「原子力利用の最終的かつ撤回不可能な終焉を、他に例を見ない拙速さで決めた背景に政治的な動機があるのは明らかだ。原発停止による電力の不足を石炭火力と天然火力の増加でまかなうため、地球温暖化防止の目標を達成することは一段と困難かつコスト高となる」
原子炉1基につき1日100万ユーロを稼ぎ出すドイツ国内の4つの電力会社にとっては、一連の流れは最悪の事態だ。彼らは政府に対する法的措置も検討している。
一方、脱原発の推進派は、自然エネルギーへの移行がドイツにとって大きなチャンスになる、という明るい未来を描いている。彼らに言わせれば、クリーンエネルギーこそ未来の姿であり、短期的なデメリットはあるとしても、早い時期に自然エネルギーに乗り換えるほうが経済的にプラスになるという。「リスクよりも経済的なチャンスのほうが大きい。今後10年間に行われる数千億ユーロ規模の投資がドイツに価値と雇用をもたらすからだ」と、ケムフェルトは言う。
ドイツ外交政策協会研究所のビートルも同じ意見だ。「ドイツ経済は新たな状況に適応しなければならないが、恐れる必要はない。新興企業が成功するかもしれないし、旧来の企業が形を変えて生まれ変わるかもしれないが、長い目で見れば産業界にプラスとなる決断だ」