最新記事

中東メディア

アメリカの歪んだ「アルジャジーラ封じ」

経営トップが独白、エジプト危機報道でも欧米メディアとは異なる視点が光るアルジャジーラをなぜアメリカは排除するのか

2011年2月7日(月)17時01分
ワダ・カンファール(アルジャジーラ・ネットワーク社長)

届かぬ声 アルジャジーラは06年に英語放送を始めたが、アメリカの大半の地域では視聴できない Jason Reed-Reuters

 この記事を書いている瞬間にも、パソコンのモニターには、私が社長を務める衛星テレビ局、アルジャジーラの危機を伝えるテロップが流れている。カイロ支局が襲撃を受け、オフィスは閉鎖され、備品は押収されてしまった──。
 
 中東カタールを本拠地とするアルジャジーラは、世界中のどの局よりも多くの記者とカメラをエジプトに投入しており、市民からの情報提供も多い。なのに、エジプトの反政府デモに関する我が社の報道を阻むハードルは増える一方だ。
 
 2月4日に記者3人が逮捕され、翌朝にはウェブサイトの一つがハッキングされた。エジプト国営のテレビ衛星運用会社ナイルサットは、先週からアルジャジーラの放送電波の送信を停止している。

 それでも記者たちは、デモ隊を暴力で抑えこもうとする政府側の攻撃に果敢に立ち向かい、エジプト全土を飛び回っている。彼らは無数の市民が権利拡大を求めて声を上げる劇的な光景をカメラに収めるため、カイロやアレキサンドリアの街頭へ飛び出していく。

 携帯電話やツイッター、フェースブックを使いこなす市民から現場の写真や最新情報がリアルタイムで寄せられることも多い。ツイッターなどのソーシャルメディアは今や、我が社の報道に欠かせないものだ。

イラク戦争突入後に貼られた「悪」のレッテル

 これに対し、エジプト当局は国内のインターネット回線を遮断。彼らの狙いはもちろん、緊迫した状況をリアルタイムで世界に伝えるアルジャジーラの力を削ぐことだ。

 もっとも私たちにとっては、情報を統制したがるアラブ諸国の政府との対立はよくあること。むしろ私が問題にしたいのは、アメリカでもまったく同じことが起きているのではないかという点だ。我が社の英語放送「アルジャジーラ・イングリッシュ」は、アメリカのテレビ放映網からほぼ完全に締め出されている。

 言論の自由を何よりも重んじるはずの米メディア界において、これは憂慮すべき事態だ。06年にアルジャジーラ・イングリッシュが始まって以来、アメリカでの放映をめぐっては次から次へと障害にぶち当たってきた。

 アルジャジーラのアラビア語放送が、中東の新メディアとして頭角を現したのは90年代後半。庶民に発言の場を与え、それまで伝わることのなかった知識層や反政府勢力の声を世界に伝える役割を果たしてきた。欧米社会では報道の自由は当然の権利かもしれないが、アラブ世界では独立系のニュースチャネルという概念はまさに革命的だった。

 その後まもなく、中東に民主主義を広めようと考えるブッシュ政権が誕生。しかし、イラクとアフガニスタンで戦争を始めてからは、アメリカ国民に伝わる情報にフィルターをかけようとし始めた。「味方か、さもなければ敵だ」という強硬姿勢のブッシュ政権下で、耳触りのいい話しか伝えないアメリカの戦争報道と一線を画すアルジャジーラは、あっという間に「悪」のレッテルを貼られた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中