グーグルCEOは「いい人」すぎた?
もっとも、アップル対グーグルの「戦争」で面白いのは、戦意がちぐはぐなところ。ジョブズは社員に対して「グーグルはiPhoneを抹殺しようとしているが、そうはさせない」とはっぱをかけていた。さらに「悪魔に身を落とすな」というグーグルのスローガンを「戯言」だと切り捨てた。
一方、グーグル側から聞こえてくるのは、アップルを友好的なライバルとみなす発言がほとんどだ。その理由は、グーグルのほうがより長期的で壮大なゲームに挑んでいるから。シュミットは、単に携帯電話市場にとどまらない野心的な目標を持っていた。
シュミットはそうした大きなビジョンを隠そうとしなかった。彼が何かを語るとき、その姿はビジネスマンというより大学教授のようだった。アメリカ経済が未曾有の危機に陥り、議会が7000億ドル相当の救済計画を可決しようとしていた08年10月にも、シュミットはグーグルの再生可能エネルギーへの移行計画をアピールし、「あらゆる問題を一気に解決できる」と訴えていた。経済危機で自社の収益が減ることなど眼中にない様子だった。
オープンソースへの揺るがない信念
他社のトップらと一線を画すシュミットの個性は、そのままグーグルの個性を形作ってきた。高い技術とオープンソースが勝つという彼の信念は揺らぐことがなかった。
アップル製品は人気が高いが、グーグル側に言わせればアップストアでしかアプリを購入できないシステムや、iPhoneやiPadのインターフェイスを隅々まで管理しようとするアップルの手法は、長期的に持続できるビジネスモデルではない。
もっとも、アップルのような囲い込み商法の未来は、グーグルが言うほど暗くないのかもしれない。一定の制約を受けることで安全と便利さを手に入れられる現状を消費者は歓迎しており、たとえiPhoneが永久にオープンソースにならなかったとしても、アップルが勝ち続ける可能性はある。
IT界のライバル企業は、アップルが課す制約に激しい対抗手段を取ってきた。アマゾン・ドットコムは出版社に対して、iPadに電子書籍を配信しないよう強い圧力をかけた。
しかしグーグルはiPhoneやiPad、マックの標準ブラウザ「サファリ」での自社サービスの使用を制限するとは思えない。そうした戦略は不安の表れであり、自分たちは自信に満ちている----グーグル陣営はそう考えているようだ。
シュミットは、グーグルの優秀な社員たちならアップルから飛んでくる障害物を乗り越えられると信じてきた。さらにCEO退任が発表された際には、「ラリー・ページが率いる次の10年は、さらに素晴らしい時代になると確信している」とコメントした。
シュミットはどこまでも「いい人」であり、同時にジョブズに劣らず優れた経営者だった。