最新記事

企業

グーグルCEOは「いい人」すぎた?

2011年1月24日(月)19時12分
ファーハッド・マンジョー

 もっとも、アップル対グーグルの「戦争」で面白いのは、戦意がちぐはぐなところ。ジョブズは社員に対して「グーグルはiPhoneを抹殺しようとしているが、そうはさせない」とはっぱをかけていた。さらに「悪魔に身を落とすな」というグーグルのスローガンを「戯言」だと切り捨てた。

 一方、グーグル側から聞こえてくるのは、アップルを友好的なライバルとみなす発言がほとんどだ。その理由は、グーグルのほうがより長期的で壮大なゲームに挑んでいるから。シュミットは、単に携帯電話市場にとどまらない野心的な目標を持っていた。

 シュミットはそうした大きなビジョンを隠そうとしなかった。彼が何かを語るとき、その姿はビジネスマンというより大学教授のようだった。アメリカ経済が未曾有の危機に陥り、議会が7000億ドル相当の救済計画を可決しようとしていた08年10月にも、シュミットはグーグルの再生可能エネルギーへの移行計画をアピールし、「あらゆる問題を一気に解決できる」と訴えていた。経済危機で自社の収益が減ることなど眼中にない様子だった。

オープンソースへの揺るがない信念

 他社のトップらと一線を画すシュミットの個性は、そのままグーグルの個性を形作ってきた。高い技術とオープンソースが勝つという彼の信念は揺らぐことがなかった。

 アップル製品は人気が高いが、グーグル側に言わせればアップストアでしかアプリを購入できないシステムや、iPhoneやiPadのインターフェイスを隅々まで管理しようとするアップルの手法は、長期的に持続できるビジネスモデルではない。

 もっとも、アップルのような囲い込み商法の未来は、グーグルが言うほど暗くないのかもしれない。一定の制約を受けることで安全と便利さを手に入れられる現状を消費者は歓迎しており、たとえiPhoneが永久にオープンソースにならなかったとしても、アップルが勝ち続ける可能性はある。

 IT界のライバル企業は、アップルが課す制約に激しい対抗手段を取ってきた。アマゾン・ドットコムは出版社に対して、iPadに電子書籍を配信しないよう強い圧力をかけた。

 しかしグーグルはiPhoneやiPad、マックの標準ブラウザ「サファリ」での自社サービスの使用を制限するとは思えない。そうした戦略は不安の表れであり、自分たちは自信に満ちている----グーグル陣営はそう考えているようだ。

 シュミットは、グーグルの優秀な社員たちならアップルから飛んでくる障害物を乗り越えられると信じてきた。さらにCEO退任が発表された際には、「ラリー・ページが率いる次の10年は、さらに素晴らしい時代になると確信している」とコメントした。

 シュミットはどこまでも「いい人」であり、同時にジョブズに劣らず優れた経営者だった。

Slate.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中