最新記事

中国軍

中国版ステルス戦闘機の実力

初めて写真が公表された試作機の性能は不明だが、噂だけで米軍を混乱に陥れている

2011年1月6日(木)17時58分

模型かも? 走行テスト中とされる「殲20」。実物大の模型だと主張する専門家もいる

 昨年末から、レーダーに探知されにくい中国版「次世代ステルス戦闘機」とみられる映像がインターネットで広まっている。12月29日に中国の非公式ウェブサイトや外国の防衛関係サイトに現れた写真は、滑走路で走行テストを行う「J-20(殲20)」の試作機だとされる。滑走路テストは通常、初飛行に入る前の最終段階で行われるものだ。

 2基のエンジンはロシアのエンジン技術を採用。鼻先の尖った機体デザインは、米空軍のステルス戦闘機F22を彷彿させる。写真には、空母に甚大な被害を与えることから「空母キラー」と呼ばれる対艦中距離弾道ミサイル、DF-21Dも写っているようだ。

「この戦闘機を配備する中国の思惑は、南シナ海海域で緊張が高まった際、米海軍が兵力を展開するのを踏み止まらせたいというものだ」と、英軍事専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウイークリーのピーター・フェルステッド編集長は英紙ガーディアンに語っている。

 問題のステルス機は、成都航空機設計研究所(四川省成都)で撮影されたと報じられている。写真が表沙汰になったのがロバート・ゲーツ米国防長官の訪中の数日前、というタイミングだったのが興味深い。訪中の目的は、アメリカが台湾に対する60億ドルの武器売却を発表した昨年1月以来、凍結していた米中首脳級の軍事交流を再開するため。今月中旬には、中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の訪米予定もある。


 

米軍の行動計画はぶち壊しに

 中国軍は急速な近代化の真っ只中にあるが、特に空、海、宇宙における勢力拡大に力を入れている。中国軍高官によれば、軍事力強化は自衛のため。しかしニューヨーク・タイムズの取材を受けた専門家らは、中国の軍備拡大は国内向けの軍事力を、アメリカに匹敵する世界的影響力を持った軍事力に転換する長期的戦略の一環と指摘している。

 米海軍高官が語るように、中国がステルス戦闘機を実戦配備するにはまだ何年もかかるだろう。しかし、今回の試作機の噂はそれだけで「アメリカの戦闘計画立案者を混乱させる」という最大の目的を果たしたとの見方もある。

「ワシントンの政策立案者たちの考えに対し、かなりの抑止効果がある」と台湾の淡江大学国際情勢・戦略研究所教授の林中斌(リン・チョンピン)は言う。「中国は将来的に何もする必要がない。今回の一件で、台湾海峡周辺をめぐる米軍の行動計画はぶち壊しになった」

 香港のカンワ・ディフェンス・ウィークリーのアンドレイ・チャン編集長は、天候が許せばステルス戦闘機は6日に初の飛行実験を行うと告げられた、とニューヨーク・タイムズに語っている。しかし中国国営メディアは、飛行実験の話は「噂」に過ぎないと報じ、戦闘機の性能を控えめに伝えた。

 写真に写っているのはステルス戦闘機の試作機ではなく、実物大の模型だと主張する専門家もいる。それでも進歩する中国の軍備が、安全保障専門家の議論を呼んでいるのは確かだ。

GlobalPost.com特約)

<訂正>問題のステルス戦闘機が「対艦中距離弾道ミサイル、DF-21Dを搭載しているようだ」という記述は翻訳の誤りとして訂正しました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の銀行、ドル預金金利引き下げ 人民銀行が指導=

ビジネス

イオン、イオンモールとディライトを完全子会社化

ビジネス

日経平均は大幅反落、一時3万7000円割れ 今年最

ワールド

インドネシア中銀が為替介入、ルピア対ドルで5年ぶり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 6
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 7
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 8
    老化は生まれる前から始まっていた...「スーパーエイ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    令和コメ騒動、日本の家庭で日本米が食べられなくな…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 6
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 7
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 8
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中