働く女性の幸せのカギはオランダ流にあり
労働や経済の専門家たちは長年、オランダ女性が長時間勤務を嫌う傾向について頭を悩ませてきた。国連は10年の春、オランダが女性差別撤廃条約を遵守しているかの調査を開始した。女性がフルタイムの職に就きづらい要因があるのではないかと疑ったからだ。
09年に行われた大規模な調査では、オランダ女性の勤務時間を他のヨーロッパ諸国の女性のそれと比べた。調査は当初、「パートタイムの仕事はフルタイムに比べて女性にとって望ましいものではない」という前提で始められたが、得られた結論は「オランダ女性はこれ以上長い時間、働きたいとは思っていない」というものだった。
週の半分をスポーツやガーデニング、アートやボランティアといった自分のやりたいことに費やしたり、子供や親しい友人たちと過ごす時間に充てているオランダの女性たちから話を聞くと、確かに素敵な暮らしぶりに思えてくる。
数年前に出た『オランダ女性は鬱にならない』という本の中で、著者のオランダ人心理学者エレン・デブラウンは、オランダ女性が幸福を感じるためには「自分は自由である」という実感や、仕事と私生活のバランスがうまく取れていることがカギになると説いた。しかし、これをそのままアメリカに当てはめることはできない。アメリカでは女性の自尊心が仕事と固く結び付いているからだ。
プレッシャーが遠のいていく
アメリカ女性は日々の生活の中でいつも妥協を強いられている。企業などで雇用されているアメリカ人女性の75%以上がフルタイムで働いている。アメリカ女性はキャリアのために家族との時間を犠牲にし、仕事が終われば子供や配偶者のために自分のやりたいことをやる時間を犠牲にしている。
またアメリカ女性は「すべてを完璧にこなさなければならない」という考え方にもとらわれている。テレビや広告や女性誌は、仕事は順調で家庭では良き妻であり母であり、いつも前向きでぱりっとした身なりをしているという完璧な女性像をつくり上げてきた。重役たちを相手に会議をリードし、細身のスカートを着こなし、小ぎれいな格好をした幼い子供のお迎えに急ぐワーキングウーマン──。
料理や編み物をただ楽しんでいるのでは理想のアメリカ女性とは言えない。ケーキショップを開いたり、ファッションショーに使われるスカーフを編むくらいでなくてはならない。テレビのトーク番組にゲストとして呼ばれたり、自分の夢を追い続けなければならない。
こんな現実離れした女性になったところで、楽しい生活が送れるわけではないと私も思う。しかし心のどこかには、まだこうした女性像への憧れも残っている。生まれ育った社会で植え付けられた考え方はそう簡単に変えられるものではない。
だがオランダにいればいるほど、スーパーウーマンにならなければというプレッシャーは遠のいていく。もっと気楽にオランダ流に生きられたら、アメリカ女性は今より幸福になれるのでは──そんな思いさえ浮かんでくる。
(Slate.com特約)
[2010年12月15日号掲載]