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超大国

中国はアメリカと同じ位「ならず者」

クルーグマンは中国が経済大国の責任を果たしていないと批判するが、大国とはそういうものだ

2010年10月22日(金)17時54分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

大国の生態 自分勝手に振る舞ってすんでしまうのが現実(09年、建国60周年式典で北京を行進する人民解放軍) CDIC-Reuters

 ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンの意見には賛同できることの方が多いが、クルーグマンが10月17日にニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したコラムの場合はそうはいかない。その中で彼は、尖閣諸島沖で中国漁船の船長を逮捕した日本政府に対し、中国が強硬な対抗措置に出たことを批判した。特に強く批判したのが、中国がレアアース(希土類)を輸出禁止にして日本に圧力をかけた問題だ。

 クルーグマンは中国が人民元相場を低く抑えていることにも矛先を向け、こうした行動は中国が「ルールに従う意志のないならず者の経済大国」である証拠だと述べた。

 私も尖閣沖での中国の行動が行き過ぎた愚かしいものだ、という点には同感だ。この一件をきっかけに、アジア諸国の間で強大化する中国への警戒感が強まり、各国が中国の影響力に対抗しようと共同歩調を取り始めるかもしれないからだ。

 とはいえ、大国がその権力を振りかざそうとするのは何も中国に限った話ではない(アメリカと中南米の関係についての歴史を振り返ればすぐに分かる)。しかし、大国としての地位を揺るぎないものとして確立するその前に、威張り散らしてしまうのは愚かなことだ。

日本と喧嘩をするのは賢くないが

 アメリカが超大国に上りつめるために取った賢い戦術の1つは、イギリスに宣戦布告した1812年の米英戦争を除き大国との勝ち目のない喧嘩を避けることだった。

 世界で最も強力で先進的な経済大国という地位を確立するまで、単に他の大国ともめるのを避けただけではない。ユーラシア大陸で大国同士が血みどろの戦いで力を使い果たすのを横目で見ながら、地政学上の力の均衡が危うくなったときだけ介入した。その結果、アメリカは第2次大戦後の世界で独占的な地位を手に入れた。

 戦略としては完璧とはいえないし、誇れるものでもない。この上なく自己本位的だったが、おかげでアメリカはその後数十年間にわたって優位な立場を確立することができた。

 中国に頭の切れる指導者がそろっているなら、彼らも同じような策に出ていたはずだ。中国はアメリカが中東や中央アジアなどで力を使い果たす間、見て見ぬふりをし、その間にも他の国と有益な関係を築き上げて、自分たちの長期的な発展計画を実現しようとするはず。特に今のような時期に、近隣諸国と些細なことで喧嘩をするなど馬鹿げたことだ。この点について、私とクルーグマンは同意見だ。

 だが、同意できない点もある。中国を「ならず者の経済大国」と呼んだことだ。そして「中国の尖閣問題への対応は......世界で最も新しい経済超大国が、この地位に見合う責任を負う準備ができていないことの何よりの証拠」と結論付けたことだ。

「ルール破り」の常習犯はアメリカ

 まず、この見方は中国(とその他の大国)が国際社会に対して「責任」を持つことを前提にしている。アメリカの指導者は、世界に対して大きな「責任」と「義務」があると主張したがる。だがこれは自らの利益(または利益と信じたもの)のために取った行動を正当化するための言い訳に過ぎない。どんな国の指導者もまず自国民に責任がある。だからこそ国際間の協力はとらえどころなく、主権国家同士の利害の衝突が決まって発生する。

 さらに中国がルールの中で動いていない「ならず者」大国であると主張すれば、「国際的ルールの多くは中国ではなくアメリカとその同盟国によって作られたもので、アメリカもアメリカ人にとって都合の悪いルールは容赦なく無視してきた」ことに頬かむりすることになる。

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