八百長サッカーに自浄力なしのFIFA
日韓W杯でイタリアを敗退させたあの審判が逮捕。サッカーの体質改善にはビデオ判定導入しかないのだが
世紀の誤審 トッティ(左から2番目)を退場させた判定は後にFIFAも誤審と認めた Desmond Boylan-Reuters
身の回りの犯罪など日常茶飯事のはずのイタリア人が、たった1人のエクアドル人の逮捕のニュースに熱狂している。彼は9月、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港にヘロイン入りの袋10個を隠し持って到着したところを逮捕された。
男の名はバイロン・モレノ。母国エクアドルではそれほど有名人でないが、イタリア人には忘れられない名だ。
モレノは02年の日韓サッカーワールドカップ(W杯)のイタリア対韓国戦で主審を務めた人物。イタリアの明らかなゴールを認めず、スター選手フランチェスコ・トッティがシュミレーション(ニセの転倒)したとして2枚目のイエローカードを出して退場させた。こうした判定にも助けられた韓国は、イタリアを下して準々決勝に駒を進めた。
イタリア人でなくとも、麻薬を運んで逮捕されたこの元審判が買収に弱く、W杯史上に残る大番狂わせに一役買った――と考えたくなるだろう。
FIFA(国際サッカー連盟)はモレノのジャッジに規約違反はなかったと結論付けたが(のちにFIFAは誤審だったと認定)、彼は韓国での茶番劇の後は主要な試合で審判を務めていない。審判としてのキャリアは翌年の03年、別の買収容疑によって終わりを告げた。02年に行われたエクアドル国内の試合で、一方のチームが逆転するまで12分間という前代未聞の長さのロスタイムを取ったのだ。
イタリア人はサッカーにおける買収の噂には慣れっこだ。かつては世界の憧れの的だった国内1部リーグ、セリエAでも同様のスキャンダルを経験している。高い人気こそがサッカーを透明で健全なスポーツにすると言う人もいるが、その後のイタリアを見る限りそうでもなさそうだ。
政治家や聖職者並みの腐敗度
スキャンダルはイタリアでサッカー人気が衰え、観客動員数が激減した原因の1つにすぎない。イタリア人は今や、このスポーツに自国の政治家や聖職者と同じくらい懐疑的な目を向けている。昨シーズンの欧州チャンピオンズリーグではセリエAのインテル・ミランが優勝した。それでもかつては世界最高峰だったセリエAの試合のレベルは明らかに落ちている。
サッカーにまつわる買収の噂があるのはイタリアだけではない。ドイツでは去年、欧州各国の複数のチームとスタッフに対する八百長疑惑の捜査が行われた。中国では地元の賭博組織が巨大な影響力を振るっていると言われる。南米は言うに及ばずだ。
それでもFIFAは最新技術の導入を拒んでいる。ビデオ判定は買収を撲滅する最高の武器であるにもかかわらず、FIFAは論点を伝統の維持という問題にすりかえている。
誰もが予想しなかったほど、現代サッカーは莫大なカネを生み出す存在になった。八百長だけではない。チャンピオンズリーグのような大会や各国のプロリーグで勝ち進めば、チームや選手は膨大な報酬を手にすることになる。イギリスのプレミアリーグに昇格したチームには、通常の収入以外に年1億ドルが支払われるという。
それなのに、サッカーほどグラウンドの面積やプレイヤーの人数あたりの審判の人数が少ないスポーツはない。その意味では、彼らが常に正しい判断を下すことができないのも納得できる。だが、なぜ彼らがこれほど重要な問題に目を向けないのかは理解できない。
ファンに性善説を押し付けるな
さらにサッカーほど試合で審判に強大な権力が預けられるスポーツもない。そのうえサッカーでは重要な試合になるほどロースコアになることが多く、1つのゴールが試合を決する。ホイッスルを吹くか吹かないか、その1回の決断が試合を決める。