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改憲OKでトルコがイスラム化する?

2010年9月14日(火)17時25分
ニコル・ソベキ(イスタンブール)

9月12日を投票日に選んだ思惑

 今回の国民投票を近代トルコ史上「最も重要」な出来事と位置づけていたエルドアンにとって、勝利は必須条件だった。8年前に政権を握って以来、AKPは多くの業績を残してきた。2001年の不況を切り抜けてトルコを世界15位の経済大国にしたのも、中東でのトルコの存在感を高めたのもAKPの力だ。

 にもかかわらず、AKPには世俗主義を切り捨て、政教分離の原則をないがしろにしようとしているという疑念が付いて回ってきた。AKPがイスラム教に傾きすぎていると考える検察当局は02年と08年の2度に渡り、党の非合法化を求めて憲法裁判所に提訴した。

「こうした改革は私自身や党のための改革だと主張するデマがあふれている」と、エルドアンはBBCのインタビューで語った。「そうした主張は事実無根だ」

 1980年の軍事クーデターで文民政府が倒されてからちょうど30年に当たる9月12日に国民投票が行われたのは偶然ではない。このクーデターでは、左派と右派が武力衝突し、憲法が停止され、50万人以上が身柄を拘束されて処刑や拷問が行われた。多くのトルコ国民の脳裏には、今もその記憶が焼きついている。

 それと同じ日に国民投票を行えば、トルコの歴史において軍部が果たしてきてきた破壊的な役割を想起せずにはいられない。しかも、憲法改正案には軍部の権限を将来的に制限する項目が含まれていた。

 1980年の軍事クーデターはそれ以前のクーデターと同じく、建国の父ムスタファ・ケマル・アタチュルクと彼が残した世俗主義を守るという理念の下に実行された。だが、今回の選挙で多くの国民が望んだのは民主主義と世俗主義の両立だった。

「改革する必要があるから、賛成票を投じた」と、イスタンブール在住の34歳の小学校教師は語った。「私たちは世俗主義を育ててきたが、今度は民主国家の作り方を学ぶ必要がある」

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