改憲OKでトルコがイスラム化する?
国民投票で決まった憲法改正は民主主義を強化するのか、それとも政教分離の国是を脅かすのか
民主国家へ 改憲支持派は国民投票の結果、トルコのEU加盟に弾みがついたと歓喜している(9月12日) Osman Orsal-Reuters
イスタンブール随一の保守的な空気が漂うファティフ地区。降りしきる雨のなか、細い路地にある投票所から出てきた人々の顔は傘に隠れ、「憲法改正賛成」を訴える政府ポスターが風に揺れて剥がれそうになっていた。
憲法改正についてトルコ国民が出した答えは「イエス」だった。9月12日に行われた国民投票では、賛成票が約58%。レジェップ・タイップ・エルドアン首相率いるイスラム系与党・公正発展党(AKP)にとっては大きな勝利だ。来年の総選挙に向けて基盤を固められただけでなく、トルコのEU(欧州連合)加盟にも弾みをつけた。
「投票箱から発せられたメッセージは、民主主義の発展へのイエス、自由へのイエス、司法の優位性へのイエス、そして国民の意思による統治へのイエスだ」と、選挙後に出演したテレビの生放送でエルドアンは語った。
世俗主義の「守護神」軍部の力を削ぐ
確かに、26項目に及ぶ憲法改正案の多く(女性と子供、障害者の権利拡大や個人情報保護など)は、大半のトルコ人にとって受け入れやすいものだった。だが一方で、政教分離の国是を揺るがすような項目もあった。そのため、世俗主義者にとっては今回の選挙は、イスラム色を強めて国家のアイデンティティを脅かすAKPとの戦いだった。
「AKPが進めてきた多くの政策と同じく、奇妙な取り合わせだ。受け入れがたい中核と隠しきれない政治的利害関係の周りに、真っ当に聞こえる甘い誘惑を巻きつけてある」と、人気の政治ブログをもつジャーナリスト、イガル・シュリファは言う。
改正項目のなかで世俗主義者がとりわけ懸念するのは、AKPの支配下にある大統領と議会が、高位の裁判官の人選に強く関与できるようになるという司法改革の部分だ。さらに、政教分離の原則を守るという名の下に過去50年間で4度、政権を失脚させてきた軍部の力を削ぐような項目もある。
賛成派は、脆弱な民主主義を改善するには憲法改正が不可欠であり、EU加盟に向けたさらなる一歩となると主張する。「現憲法は個人ではなく国家を守るためのものだ。トルコの法律の大半は、いまだにこの考え方に根付いている」と、オランダ選出の元欧州議会議員ヨースト・ラゲンダイクは書いている。