最新記事

軍事

米韓軍事演習の気になる「効果」

北朝鮮への警告になるだけでなく、軍事作戦において重要な役割を担っている

2010年7月23日(金)18時03分
ジョシュア・キーティング(フォーリン・ポリシー誌編集者)

北へのメッセージ 韓国南東部の釜山港に入港した米原子力空母ジョージ・ワシントンとイージス駆逐艦マクキャンベル(7月21日) Truth Leem-Reuters

 ロバート・ゲーツ米国防長官と韓国の金泰栄(キム・テヨン)国防相は7月20日にソウルで会談した後、両国で大規模な合同軍事演習を行うと発表した。7月25〜28日に日本海で行われる予定で、米原子力空母ジョージ・ワシントンを含む艦艇・潜水艦約20隻と、航空機およそ200機が投入される。

 両国の共同声明によると、演習の目的は「北朝鮮に対し、攻撃的な態度を止めるよう警告すると同時に、米韓が共に防衛能力の強化に力を注いでいるという明確なメッセージを送ること」だという。こうした演習は確かに政治的メッセージを発するものだが、実際のところ訓練としての意義はあるのだろうか。

 答えはイエスだ。海軍の軍事作戦において、軍事演習は重要な役割を担っている。米海軍の艦艇が同じ海域に2隻展開している際には、何らかの戦闘シミュレーションが行われる。他国との合同演習では、敵国に政治的なメッセージを送ることや、同盟国との関係強化が目的の場合もある。しかし同時に、実際の軍事行動に備えたり軍事上の弱点を見つける良い機会でもある。

 こうした演習で見つかる最大の弱点といえば、いわゆる「相互運用性」だ。同盟国の間で軍の装備に差がある場合、戦闘中に意思疎通を図るのが難しくなる。さらに指揮系統が異なるために、情報伝達の経路が不明確になりかねない。その点、軍事演習は兵士たちが実際の戦闘で情報をどう共有するか、命令をどう実行するかという手順を明確にするいい機会になる。

最大の課題は北の潜水艦対策

 軍事演習のもう1つの重要な目的は、起こり得る戦闘を想定し、それぞれの役割を定めることだ。アメリカの同盟国の大半は、米軍と同等の軍事力や前方展開力をもっていない。だから通常は同盟国が守備、米軍が反撃の役割を担う。冷戦末期には、NATO(北大西洋条約機構)軍が援軍として駆けつけるまで、ソ連の中欧ヨーロッパ侵攻をドイツ軍が食い止めるというシナリオで訓練を行っていた。

 韓国の場合も同様だ。アメリカから援軍が駆けつけるまで、韓国軍と在韓米軍は限られた戦力で北朝鮮の侵攻を阻止しなければならない。最近の演習には、不測の事態に新たな兵力と装備を投入する場合を想定した訓練も含まれていた。

 今回の演習の詳細は明らかにされていないが、中心になるのはおそらく対潜作戦だろう。今年3月に韓国海軍の哨戒艦「天安」が撃沈された事件(北朝鮮に攻撃された可能性が高い)は、韓国の対潜能力の低さを露呈した。北朝鮮の潜水艦は小型でデザインも比較的シンプルなため、レーダーやソナーで発見しにくい。

 対潜演習のシナリオの1つは、1隻の潜水艦が味方の潜水艦グループから離れ、同じグループに見つからないように近付くというもの。その他に、水上艦と水上艦の戦闘や上陸作戦も想定される。今後数カ月の間に、こうした米韓合同軍事演習は10回近く予定されている。練習を積む機会は、たっぷりあるというわけだ。

Reprinted with permission from"FP Passport", 23/07/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中