最新記事

北朝鮮

奇襲攻撃でソウルを制圧せよ

2010年6月24日(木)14時31分
マーク・ホーゼンボール、ブラッドリー・マーティン

 人口が多く経済活動の中心地でもある首都ソウルを人質に取っている限り、北朝鮮は韓国(と同盟国のアメリカ)に対して有利な立場で交渉に臨める。

 ベクトルによると、「北朝鮮にとって、もはや朝鮮半島の統一は必要ない。ソウルを奪うだけで十分だ。ソウルを手にすれば圧倒的な強みになる」。

 ベクトルは、北朝鮮が韓国への「侵攻ルート」に配備しているミサイルや特殊部隊、機動部隊は「そうした目的を持ち、その目的のために訓練されている。以前から私はそう主張してきた。ここで重要なのは、ついに一般メディアも同様な主張を載せるようになったことだ」と言う。

 中央日報の記事は、北朝鮮の作戦計画変更は「米軍と韓国軍の兵器システムが改良されたことに対応するため」ではないかとする情報筋の観測も伝えている。

 さらに軍事専門家の言葉も引用している。それによると、北朝鮮は03年のイラク戦争を見て、米軍には標的を正確に破壊できる兵器があり、時代遅れの武器しかない自国の軍隊では歯が立たないことを認識したという。

 そこで北朝鮮は作戦を変更し、機動力のある歩兵隊を前線に増強して短期決戦を仕掛け、素早くソウルに入って首都占領の既成事実をつくろうと考えている。

 同紙の取材に応じた韓国軍の高官によれば、北朝鮮は潜水艦を提供するのと引き換えにイランから新型魚雷を入手し、敵が海岸線から上陸してくるのを防ぐ計画も練っているらしい。

北朝鮮版カミカゼの恐怖

 ただしアメリカ政府は、3月の哨戒艦への魚雷攻撃が本当に昨年11月の事件への報復かどうか、まだ断言できないとしている。

 もちろん、動機としてはかなり説得力のある話だ。しかし本当の問題は、あれが報復行為であったとして、それが国軍の最高責任者である金総書記の許可ないし指示の下に行われたのか、それとも現場の軍指揮官の裁量の範囲で行われたのか。

 韓国の哨戒艦が何らかの状況で北朝鮮の攻撃で沈没したことが明らかになった現在、場合によっては戦争になりかねない。しかしアメリカや日本、韓国、とりわけ中国は破滅的な戦争へとエスカレートさせないよう、慎重に行動しているように思える。

 5月21日に訪中したヒラリー・クリントン米国務長官は、この事件や今後起こり得る北朝鮮の挑発への対抗策について、中国と重点的に話し合っている。

 脱北者らの情報によれば、北朝鮮は「人間魚雷」で自爆攻撃に出る兵士も訓練しているらしい。第二次大戦中の日本軍と同じだ。

 何万もの兵士を駐留させて韓国を攻撃から守っているアメリカは、41年の真珠湾攻撃の悪夢を忘れていない。どう考えてもアメリカに勝てる力はなかったのに、当時の日本軍は大胆な奇襲攻撃でアメリカを揺さぶった。

 70年前の日本軍と似ているという視点は重要だ。北朝鮮のプロパガンダに詳しいB・R・マイヤーズも、新著『汚れなき民族──北朝鮮民族の自画像とその重要性』で、北朝鮮版「特攻隊」の危険を指摘している。

 「北朝鮮による最悪の行為といえば、より危険な中東の勢力に核物質や核技術を輸出することだと考えられているが」と、マイヤーズは書いている。「その一方で軍事最優先の北朝鮮は、特攻精神を鼓舞するスローガンを叫び続けている。太平洋戦争の頃の大日本帝国と同じだ」

GlobalPost.com特約)

[2010年6月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア新駐米大使、米国が承認 数週間以内に正式任命

ワールド

韓国の尹大統領、取り調べに応じず 裁判所襲撃で警備

ビジネス

トランプ氏の仮想通貨「$トランプ」急騰、時価総額1

ビジネス

中国人民銀、副総裁に金融政策局長の鄒瀾氏が昇格へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 10
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中