スーダン戦犯におもねる国連の機能不全
一方バシルにとっては、これが二者択一の問題として捉えられるのは大歓迎だ。「国連はリスクを伴うICCの要求を受け入れるか、ダルフール和平協議や南北包括和平合意の履行を支持していくかのどちらかだ」と、スーダンのモハマド国連大使は語っている。
手下を狙うのが精一杯
バシルが、来年1月の住民投票で南部が独立を選択したらその結果を尊重すると約束していることも国連の姿勢に影響を与えている。関係者はバシルが心変わりしないよう、彼を刺激するような動きを警戒している。なかでも一番憂慮しているのが、バシルの逮捕だ。
そこで、モレノ・オカンポはバシルから遠いところから攻略する戦術に出た。ICCは5月26日、容疑者逮捕への協力を拒むスーダン政府を正式に安保理に訴えた。ただし「容疑者」とは、バシルのことではなく、同じくダルフール紛争の戦争犯罪の罪に問われるスーダンの元閣僚アーメド・ハルーンと、政府系民兵組織ジャンジャウィードの元リーダー、アリ・クシャイブだ。
ICCは前例のない行動にでたわけだが、これは単なる形式的なものにすぎないとも言える。とはいえ、焦点をバシルから外したことは、モレノ・オカンポが現実的になった証拠だ。彼はスーダン政府に対しても安保理に対しても多くを望み過ぎていたことを認識し、手が届く「獲物」へと照準を絞った。より実現しやすい要求を関係者に突きつけたのだ。
ダルフール紛争がまた激化したとしても、来年の住民投票の前に安保理が政治上の計算を度外視するとは考えにくい。実際、安保理議長は14日、モレノ・オカンポの要求に対し「具体的な行動」を取る計画はないとした。
それでも住民投票が終わった後ならば、安保理もハルーンとクシャイブの逮捕をスーダン政府に求める可能性がある。バシルの逮捕より要求しやすい2人だし、バシルも自らの保身のために部下を差し出す取引に応じるかもしれない。
これは、バシルが住民投票を予定どおりに行い、その結果を尊重するという信頼に基づく安保理の戦略的な賭けだ。賢明な戦略とも呼べるが、見方によっては譲歩とも呼べるだろう。