暴走カルザイという「火種」
緊張が高まり始めたのは、カルザイが3月10日に、イランのマフムード・アハマディネジャド大統領を首都カブールに迎えて歓待したことだった。核問題などで欧米と激しく対立するアハマディネジャドと親密ムードを演出したカルザイの態度に、米政府はメンツをつぶされたと感じた。
しかし、ニューヨーク・タイムズ紙が書いているように、これには背景があった。選挙不服審査委員会の独立性を奪う選挙法の改正を受けて、オバマはカルザイをホワイトハウスに招待する予定を取り消した。カルザイとしては、この措置に対する意趣返しのつもりだったようだ。
3月28日、オバマは急きょカブールを訪問。カルザイに直接懸念を伝えると同時に、引き続きカルザイ政権を支援することを約束した。首脳会談は友好的に進んだように見えた。
ところが3月31日、ワシントン・ポスト紙の1面にある記事が載った。この記事には、カルザイの弟アフメド・ワリ・カルザイを反政府武装勢力指導者の指名手配リストに加えるかもしれない、という趣旨の「米軍高官」による発言が引用されていた。
アメリカの選択肢は2つ
指名手配リストに加えられれば、逮捕・殺害の対象になる。この記事がカルザイを刺激したのではないかと、私が話を聞いた2人の米政府当局者は推測している。
いまオバマは、09年10月に続いてジョン・ケリー上院議員を派遣すべきなのかもしれない。このときケリーはカルザイと会談を重ね、不正が明るみに出た大統領選のやり直し投票を行うよう説得することに成功した。もう一度ケリーが訪問すれば、カルザイの不安を取り除き、過激な言動を控えさせることができるかもしれない。
もしカルザイに冷静さを取り戻させることができなければ、アメリカにとって難しい状況が待っている。オバマは米軍の撤収をちらつかせて脅すこともできるが、カルザイはそれをはったりと見なして、オバマの脅しを受けて立つかもしれない。
ではカルザイを相手にせず、地方の知事や部族指導者と直接協力するという選択肢はどうか。「カルザイはこのたぐいの駆け引きに非常にたけている」と、カブール駐在経験を持つ元国連職員のジェラード・ラッセルは言う。「カルザイは、力を付けた知事を弱体化させてしまうかもしれない」
それでは、カルザイを失脚させるという方法はどうか。09年の大統領選前にそのチャンスがあったとラッセルは言うが、否定的な見方をする人も多い。カルザイは一般に思われている以上に抜け目ない人物だし、もし失脚させたとしても次の指導者がカルザイよりましな人物だという保証はないというのがその理由だ。
それに、アメリカには過去の苦い記憶がある。ベトナム戦争時にCIA(中央情報局)が南ベトナムのゴ・ジン・ジェム大統領を暗殺したが、状況はまったく改善せず、むしろアメリカはますます泥沼にはまり込んだ。
いずれにせよ現時点では、選択肢は2つしかないと、ラッセルも言う。1つは、カルザイに対する支援を一切やめるという選択。もう1つは、カルザイを徹底的に支援するという選択だ。
中途半端な態度を取ったり、いさかいを続けたりすれば、破滅的な結果が待っているだろう。だからこそ、しかるべき人物をカブールに派遣して、膝詰めでカルザイを説得させる必要がある。
オバマは09年12月に新しいアフガニスタン戦略を打ち出したとき、2011年7月から米軍の撤退に着手すると表明した。この点についてロバート・ゲーツ国防長官とマイク・マレン統合参謀本部議長は議会に対し、10年末までに戦略の成功の度合いを判断し、部隊をどの程度引き揚げられるかを示すと説明している。
10年末までに、カルザイがパートナーとして信頼に足る態度を示さなければ、アメリカ政府はアフガニスタンの誰かほかの指導者をパートナーとして支援するか、さもなければアフガニスタンから手を引くしかない。
*Slate特約
http://www.slate.com/
[2010年4月21日号掲載]