英語しゃべれる人材育成も費用対効果
コストを抑えつつ、社員の会話力を引き上げる秘策とは? 非英語圏の企業が競い合うグローバル人材育成の最前線
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経済危機を機に、企業は研修の投資効果を本気で検証し始めた。試験を使った実践力アップ戦略から「英語を教えない」アプローチまで、グローバルビジネスの即戦力になる語学力を効率よく伸ばす試みに注目が集まっている。
いすゞ自動車の総務人事部で働く40代の吉岡尚人には最近、前向きなオーラが漂っている。英語力向上という明確な目標があるからだ。朝4時半に起きて、インターネットで配信されるNHKラジオのビジネス英語講座を聞き、通勤電車ではiPodでとにかく大量にリスニングする。
最近のテーマは、コストを掛けずに英語力を磨くこと。休日は、図書館で借りたゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ前会長の著書を読む。英語を話す場を求めて参加している非営利のスピーチサークル、トーストマスターズクラブは月会費1500円だ。「大金を掛けなくても方法はいくらでもある。留学せずにTOEIC900を超えたい」
人事担当者らしい発想だ。できるだけコストを削減しつつ英語力を向上させたいという思いは、企業も同じだ。
新興市場への進出や業務の国外アウトソーシングが加速するなか、非英語圏の企業は競って社員の英語教育に巨額の投資をしてきた。社内での英会話クラスからプレゼンテーション前の特訓、赴任国の文化を学ぶ講習会、幹部候補生のMBA留学まで、社員のグローバル化への取り組みは多岐にわたる。
だが、08年秋以降の経済危機で潮目が変わった。世界中の企業幹部が学ぶロンドンの語学学校では昨年、生徒数が軒並み3〜4割減少。ヨーロッパの研修サービス業界の関係者は、企業の英語教育予算が半減したと口をそろえる。
経済危機の影響が比較的小さかったアジア諸国の企業も、厳しい財政事情は変わらない。「不況で最初に切り詰められるのは、決まって出張費と研修費だ」と、IBMドイツ法人などに語学研修を提供するインターナショナル・コミュニケーションズのレベッカ・スプレンゲル講師は言う。
とはいえ、ビジネスで要求される英語運用能力の水準はますます高まっている。多少英語ができるからといって、何のトレーニングも受けていない社員を外国に送り込んでも、提携交渉をまとめたり、現地従業員と良好な関係を築いたり、国際会議で説得力のある議論を展開するのは無理な話だ。
教育コストを抑えつつ、グローバルビジネスに必要な英語力をより効率よく伸ばす方法はあるのか。相反する2つのニーズに迫られた各国の企業は、プログラムの投資効果を検証し、「英語教育ポートフォリオ」の見直しを進めている。
猛勉強よりパーティーへ
明確なリターンが期待できないとして最初にやり玉に挙がったのは、単語や文法、ビジネスに便利な表現などを学ぶ週1〜2回の英会話クラスだ。時間を取られる割に業務上の成果に直結しないことに、多くの人事担当者がもどかしさを感じている。
「シャワーのように知識を与えるだけの授業はもう受け入れられない」と語るのは、ダイムラーでの研修を打ち切られたアメリカ人講師ケレン・ピッカード。「企業は個々のニーズに対応し、成果を測れるプログラムを求めている」
125カ国に5万人以上の社員を擁するドイツの化学メーカー、ヘンケルは従来型の研修を廃止し、「成果を出すためのコミュニケーションスキル」に特化したプログラムに力を入れている。
ドイツ人上司がシンガポールにいる部下に国際電話で実験手法について説明する、組織改編計画の報告書を英語で書く──1回90分のセッションで、参加者は自分が日々直面している具体的な課題を乗り越えるすべをたたき込まれる。