最新記事

英語教育

英語しゃべれる人材育成も費用対効果

コストを抑えつつ、社員の会話力を引き上げる秘策とは? 非英語圏の企業が競い合うグローバル人材育成の最前線

2010年5月10日(月)12時55分
井口景子(東京)、アンドルー・サルモン(ソウル)、ウィリアム・アンダーヒル(ロンドン支局)

Alex Williamson-Ikon Images/Getty Images

経済危機を機に、企業は研修の投資効果を本気で検証し始めた。試験を使った実践力アップ戦略から「英語を教えない」アプローチまで、グローバルビジネスの即戦力になる語学力を効率よく伸ばす試みに注目が集まっている。

 いすゞ自動車の総務人事部で働く40代の吉岡尚人には最近、前向きなオーラが漂っている。英語力向上という明確な目標があるからだ。朝4時半に起きて、インターネットで配信されるNHKラジオのビジネス英語講座を聞き、通勤電車ではiPodでとにかく大量にリスニングする。

 最近のテーマは、コストを掛けずに英語力を磨くこと。休日は、図書館で借りたゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ前会長の著書を読む。英語を話す場を求めて参加している非営利のスピーチサークル、トーストマスターズクラブは月会費1500円だ。「大金を掛けなくても方法はいくらでもある。留学せずにTOEIC900を超えたい」

 人事担当者らしい発想だ。できるだけコストを削減しつつ英語力を向上させたいという思いは、企業も同じだ。

 新興市場への進出や業務の国外アウトソーシングが加速するなか、非英語圏の企業は競って社員の英語教育に巨額の投資をしてきた。社内での英会話クラスからプレゼンテーション前の特訓、赴任国の文化を学ぶ講習会、幹部候補生のMBA留学まで、社員のグローバル化への取り組みは多岐にわたる。

 だが、08年秋以降の経済危機で潮目が変わった。世界中の企業幹部が学ぶロンドンの語学学校では昨年、生徒数が軒並み3〜4割減少。ヨーロッパの研修サービス業界の関係者は、企業の英語教育予算が半減したと口をそろえる。

 経済危機の影響が比較的小さかったアジア諸国の企業も、厳しい財政事情は変わらない。「不況で最初に切り詰められるのは、決まって出張費と研修費だ」と、IBMドイツ法人などに語学研修を提供するインターナショナル・コミュニケーションズのレベッカ・スプレンゲル講師は言う。

 とはいえ、ビジネスで要求される英語運用能力の水準はますます高まっている。多少英語ができるからといって、何のトレーニングも受けていない社員を外国に送り込んでも、提携交渉をまとめたり、現地従業員と良好な関係を築いたり、国際会議で説得力のある議論を展開するのは無理な話だ。

 教育コストを抑えつつ、グローバルビジネスに必要な英語力をより効率よく伸ばす方法はあるのか。相反する2つのニーズに迫られた各国の企業は、プログラムの投資効果を検証し、「英語教育ポートフォリオ」の見直しを進めている。

猛勉強よりパーティーへ

 明確なリターンが期待できないとして最初にやり玉に挙がったのは、単語や文法、ビジネスに便利な表現などを学ぶ週1〜2回の英会話クラスだ。時間を取られる割に業務上の成果に直結しないことに、多くの人事担当者がもどかしさを感じている。

 「シャワーのように知識を与えるだけの授業はもう受け入れられない」と語るのは、ダイムラーでの研修を打ち切られたアメリカ人講師ケレン・ピッカード。「企業は個々のニーズに対応し、成果を測れるプログラムを求めている」

 125カ国に5万人以上の社員を擁するドイツの化学メーカー、ヘンケルは従来型の研修を廃止し、「成果を出すためのコミュニケーションスキル」に特化したプログラムに力を入れている。

 ドイツ人上司がシンガポールにいる部下に国際電話で実験手法について説明する、組織改編計画の報告書を英語で書く──1回90分のセッションで、参加者は自分が日々直面している具体的な課題を乗り越えるすべをたたき込まれる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

鴻海、第4四半期売上高は過去最高 AI需要がけん引

ワールド

ベトナム、25年は8.02%成長に加速 対米貿易黒

ワールド

アングル:高市氏、米ベネズエラ攻撃の評価保留 政府

ワールド

アングル:ベネズエラ攻撃、中国の領有権主張に追い風
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── 韓国拉致被害者家族が見る日韓の絶望的な差
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 6
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    スペイン首相、アメリカのベネズエラ攻撃を「国際法…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中