EUの地盤沈下が止まらない
共通外交政策よりも自国の利益を優先、「身勝手な指導者」が欧州をむしばんでいる
国際政治が今ほど不安定なのは、1930年代以来のことだ。中国やインド、トルコ、ブラジルなどの新興国、それに再び強力な自己主張を始めたロシアは、従来型の民主主義に対してこれまでにない挑戦状をたたき付けている。
なのにヨーロッパは、EU(欧州連合)拡大を国際政治での発言力拡大に結び付けることができずにいる。それどころか一段と存在感を失っているように見える。
5月に行われる予定だった毎年恒例の米EU首脳会議は取りやめになった。バラク・オバマ米大統領が今年はこの「写真撮影会」に出席しないことを決めたからだ。オバマは4月8日チェコの首都プラハを訪問するが、それはロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領に会って新しい核軍縮条約に調印するのが目的だ。
アメリカとヨーロッパには外交分野で共通の利益がある──そんな理解がまかり通ったのは過去の話。今やそんな概念は、まったくの時代遅れに見える。
こんなはずではなかった。09年12月にはEUの新憲法であるリスボン条約が、10年にわたる紆余曲折の末、鳴り物入りで発効した。
存在感の薄いEU大統領
同条約は、EU大統領(欧州理事会常任議長)とEU外相(外務・安全保障上級代表)という2つのポストを新設して、共通外交政策を実現すると高らかに宣言した。だがうまくいっていない。
一部の識者はEUを脇に追いやり、アメリカと中国による「G2」の時代が来たと騒いでいる。その中国は、気候変動問題を協議したコペンハーゲン会議でリーダー気取りのEUを無視。ロシアもEUとの関係強化よりも、イタリアなど従順な国との2国間関係を築きたがっている。
EUがイランの核開発問題に神経質になるなか、トルコはそれを鼻であしらうようにイラン大統領の訪問を歓迎した。ブラジルもヨーロッパの意向などお構いなしに、フォークランド諸島の領有権をあらためて主張するアルゼンチンへの支持を表明した。
問題の一端は、魅力的な人物の不在にある。なかでもヘルマン・ヴァンロンプイEU大統領とキャサリン・アシュトン外相は無名で、良くも悪くも存在感がない。
だが本当に問題なのは、ヨーロッパの指導者たちが、実のところ共通の外交政策を取るつもりなどないことだ。
欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長は、EUの顔としての立場を奪われまいと大統領職の創設に異義を唱えていた。シャルル・ドゴール並みの国際政治のキープレーヤーを自負するニコラ・サルコジ仏大統領は、他のヨーロッパ諸国がロシアの台頭に不安を覚えているのに、最新鋭の軍艦をロシアに売却した。
ドイツや英国には好都合
共通外交政策の不在は、自国産業の輸出促進にしか関心がないらしいアンゲラ・メルケル独首相には好都合だ。いまだにコソボの独立を認めずに、バルカン半島問題の全面的解決を遅らせているスペイン政府や、5月6日の総選挙まで外交政策を「保留」しているイギリス政府にとっても都合がいい。
重要な外交問題でも、各国の意見は割れている。ロシアを阻止するのか迎合するのか、トルコのEU加盟を認めるのか、イスラエルに強硬姿勢を取るのか、アフガニスタンをどうするのか......。
アフガニスタンに関してはほとんどのEU諸国が派兵に消極的だ。実際オランダでは今年2月、アフガニスタン駐留問題で意見が対立し、連立政権が崩壊している。対キューバ関係のように重要性の低い問題でも、カストロ政権と交渉している国もあれば、独裁体制だとボイコットしている国もあるなど、足並みはそろわない。