モスクワのテロで露呈したプーチンの嘘
反プーチン派が集結した組織「もう一つのロシア」のタチアナ・ロクシナは、当局の反応がメドベージェフの改革の進展度を示す指標になるだろうと語る。「メドベージェフがリベラルな視点を持ち合わせているかどうかを試す試金石になる。3月31日にはどうか、人々が心の内を吐露するのを認めてほしい」
プーチン自身は爆破テロ当日に怒りに燃えた様子でテレビに登場し、容疑者を裁きにかけ、テロを撲滅すると誓った。もっともプーチンは、99年にモスクワなどで起きた連続アパート爆破事件(300人以上が死亡)の際にも同じような約束をし、翌年大統領に就任している。
あれから10年が経ち、その言葉は虚しく聞こえる。ロシア警察とFSBの過激派対策によって、北カフカス地方の一般市民が苦しんでいる現状では、なおさらだ。
市民と警察が衝突する最悪のシナリオ
ロシア警察の特殊部隊は、テロ容疑者やその家族への拷問行為があったことを認めている。またヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、チェチェン戦争が終結したとされる02年以降に治安当局によって「行方不明」にさせられた人は2万人以上(大半は若い男性)に達するという。
プーチンはテロを撲滅すると言うが、どうすればその約束を果たせるのかは明らかでない。イスラエルの例を見れば、高性能爆弾を所持する相手の自爆テロから都市を防御するのはほぼ不可能だ。先日の自爆テロ犯も、昨年末の米機爆発未遂事件などで使われた自家製爆弾よりずっとコンパクトで破壊力のあるトリニトロトルエンが大量に使われた。
ロシアの場合はイスラエルと違って、北カフカス地方との境に壁を作ってテロリストを締め出すという手も使えない。だとすれば予想される対応は、FSBによる監視と警察の職務質問の権限を強化すること。FSBと警察の抜本改革を進めようとする、生まれたての市民社会運動に逆行する流れだ。
ロシア政府にとって最も都合が悪いのは、テロが相次ぎ、国家が市民の安全を守れなくなるというシナリオだ。そうなれば、市民による反体制運動が激化し、権限を増した警察と反対派が衝突するという事態もあり得る。