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イラク選挙

スンニ派政党ボイコットで国民融和に危機

3月7日に連邦議会選挙を控えて宗派対立が再燃。ボイコットが相次いで国民全員の選挙にならなければ、国家はまた分裂しかねない

2010年2月23日(火)17時40分
トーマス・リックス(ワシントン・ポスト紙軍事担当記者)

融和か分裂か 2月20日、選挙運動続行を宣言した政党連合イラキーヤの広報担当者(後ろは指導者のアラウィ元首相) Saad Shalash-Reuters

 3月7日の連邦議会選挙を前に、イラク情勢が不透明さを増している。2月20日の土曜日だけでも次のような動きがあった。
 
1)イラクのイスラム教スンニ派有力政党「イラク国民対話戦線」が選挙に参加しないと発表。同党の有力指導者サレハ・ムトラクが旧フセイン政権下の支配政党バース党との関係を理由に出馬が認められなかったためだ。

2)イラク国民対話戦線も参加していた世俗派の政党連合「イラキーヤ」が選挙運動続行を宣言する一方、指導者のアヤド・アラウィ元首相(シーア派)は、スンニ派国家の盟主サウジアラビアに赴き、アブドラ国王と中央情報局長官のムクリン・アブドゥル・アジズ王子と何事かを相談。

3)タルク・ハシミ副大統領(スンニ派)はエジプトの駐イラク大使シャリフ・カメル・シャヒンと会談。

4)イラン軍がイラク東部ディヤラ州の紛争地帯で、コンクリートのバリケードを壊して国境を侵犯。聞くところによればそこは、シーア派のヌーリ・マリキ首相派が陸路イランに行く際に好んで使うルートだという。

 これらの慌しい動きは、いったい何を意味しているのだろうか。私自身、混乱している。

9月までに軍事クーデター説も

 心配するな、という同僚たちもいる。スンニ派も自らの退勢は理解しているし、子供の世代まで冷や飯を食うことになるだろう、と彼らは言う。だが、同じくらいイラク情勢に詳しい他の同僚たちは、9月までに内戦か軍事クーデターがあると予想する(軍事クーデターはいいことだと言う同僚さえいる)。

 誰も正しいとは思えない。専門家の見方がこれほどバラバラに乱立するのは、イラク新憲法に基づく連邦議会選挙が行われた05年後半以来のこと。不吉な兆候だ。

 ジョージ・W・ブッシュ政権下の米軍増派による「大攻勢」の作戦担当だったダグラス・オリバント元陸軍中佐は、すべては07年にイラクの治安を回復できた理由をどう考えるかにかかっているという。


 07年の大攻勢の結果は各派の対立を凍結させただけで、治安回復の主力はアメリカだったと考えるなら、米軍が撤退すればすべては崩壊すると考えるのが論理的だ。もしイラク人が07年にもう争いはたくさんだと考え、我慢できる程度の妥協は得られたと考えたのだとしたら、米軍撤退の悪影響はほとんどなく、むしろ安定化を促進するはずだ(もちろん、ある程度の残留部隊は必要だが)。


 優れた分析だと思う。私はどちらかというと、07年の治安回復はアメリカの軍事的・経済的介入に負うところが大きかったと考える立場だ。

 イラクの現状に満足していると思っていたイラク史家のレイダー・ビサールも、こんなことを言い出している。「イラク情勢が悪化し、分裂したイラクが地域の獰猛な隣人たちの餌食になるのを防ぐ方法はもう、3月7日の選挙に(多くの政党が参加し)大多数の国民に投票に来てもらうしかない」

Reprinted with permission from the The Best Defense, 23/2/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.


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