最新記事

オリンピック

五輪メダル数は経済学に聞け!

バンクーバー冬季五輪ではどの国が何個メダルを獲得するのか──経済学者が予測するとこうなる

2010年2月15日(月)17時22分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

米加対決 女子モーグルで金メダルを獲得したアメリカのハナ・カーニー(右)と銀メダルのカナダのジェニファー・ハイル(2月13日) Mike Blake-Reuters

 オリンピックでは、いつも数々のドラマが生まれる。2月12日に開幕したバンクーバー冬季オリンピックも例外でないだろう。アスリートたちは激しいつば競り合いを繰り広げ、コンマ1秒の違いで勝敗が決まる。不測の事態や事故がいつ起きるとも分からない。

 そう考えると、オリンピックの国別の獲得メダル数を経済学的手法で割り出そうなどというのは無謀な試みだと思うかもしれないが、必ずしもそうではない。夏のオリンピックに関しては、多くのエコノミストが予測に挑戦し、思いのほか好成績を残している。

 一方、規模の小さい冬のオリンピックはエコノミストにあまり注目されていないのが実情だ。それでも、コロラド州のコロラド・カレッジで経済学を教えているダニエル・ジョンソン教授は、冬季オリンピックのメダル数の予測に取り組んできた。なにしろジョンソンはカナダの生まれで、今の職場はスキーのメッカのコロラド州。おまけに趣味はカーリングだ。

 ジョンソンが用いるモデルは極めてシンプル。計算に入れる変数は5つだけだ。人口、人口1人当たりの所得、気候、政治体制、そして開催国の「地の利」である。

 想像どおり、人口が多く、経済的に豊かな国ほど、世界レベルのアスリートを輩出しやすい。冬季オリンピックの成績と気候の間に強い連動性があることも意外でないだろう。「子供の頃からスキーをしていた人のほうが優れたスキー選手になる確率は高い」と、ジョンソンは言う。「所得格差を調整して計算しても、(北の)寒い国は(南の)暖かい国より強い」

1位はやっぱりあの国

 意外な印象を受けるかもしれないのは、政治体制と獲得メダル数の関係だ。キューバや中国など、1党支配体制の国がオリンピックで好成績を残しているのだ。独裁政治はグローバルな経済や文化の競争で不利になっても、グローバルなスポーツ大会では強みになるようだ。

 開催国に地の利が働くことも、ジョンソンは指摘している。この効果で、開催国の獲得メダル数が平均3個上積みされるという(このうち1個が金メダル)。

 このほかに、数字で表しにくい要素がもう1つ作用すると、ジョンソンは指摘している。それは、その国のスポーツ文化だ。夏のオリンピックでオーストラリアが純粋な経済学的試算結果よりたくさんメダルを獲得するのは、マッチョでタフであることが尊ばれるこの国のスポーツ文化の影響だ。「同じことは冬季オリンピックのノルウェーにも当てはまる」と、ジョンソンは言う。

 では、バンクーバー冬季オリンピックの国別メダル獲得数をジョンソンはどう予測しているのか。試算結果は、リンク先のPDFファイルのとおりだ(この表には、獲得予想メダル数が10以上の国しか示されていないが)。

 ジョンソンの予測によれば、1位は、もともとウィンタースポーツに強い上に、開催国の強みにも後押しされるカナダ(27個)。2位は、アメリカとノルウェー(26個)。その後に、オーストリア、スウェーデン、ロシア、ドイツなどヨーロッパの常連が続く。

強い国の条件は「大・豊・寒」

 注目すべきは中国だ。中国は目覚しい経済成長を遂げているし、08年に北京で開催された夏季オリンピックでは獲得メダル数を大きく増やした。しかしジョンソンの予測によれば、前回の06年のトリノ冬季オリンピックからの大躍進は期待薄だという。

「なるほど経済は急速に成長しているが、国民1人当たりの所得は上位の国に比べてまだ少ない」と、ジョンソンは言う。それに、中国は自国開催だった北京オリンピックほどの強化予算を冬季オリンピックにつぎ込んでいない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロが電力インフラに大規模攻撃、「非人道的」とゼレン

ワールド

カザフスタンで旅客機墜落、67人搭乗 32人生存

ワールド

日中外相が会談、安保・経済対話開催などで一致

ビジネス

政府経済見通し24年度0.4%に下げ、輸出下振れ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 2
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 3
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 4
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 5
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 6
    ウクライナ特殊作戦による「ロシア軍幹部の暗殺」に…
  • 7
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 8
    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …
  • 9
    中国経済に絶望するのはまだ早い
  • 10
    世界一の億万長者はイーロン・マスクに...あの「ネッ…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 10
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中