最新記事

米機テロ未遂

テロ容疑アカウント数万件の脅威

9・11や米機テロ未遂の背後にいたと見られるイスラム指導者アウラキを追う米当局の前には、気が遠くなるほど膨大な数のメールアカウントと正体不明のアカウント保有者が立ちはだかっていた

2010年1月6日(水)17時53分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

格好の隠れ家 アウラキを取り巻く数万のメールアカウント保有者のなかに、あとどれだけテロリストが隠れているかわからない

 米治安当局によると、過激なイスラム指導者アンワル・アル・アウラキとの交信に使われていた電子メールのアカウントが数万件にも達することが情報機関の調べでわかった。

 アウラキは、テキサス州フォートフッドの陸軍基地で銃を乱射した軍医ニダル・マリク・ハサンとも、昨年のクリスマスに米航空機爆破テロ未遂事件を起こしたナイジェリア人の「パンツ・ボマー」、ウマル・ファルーク・アブドゥルムタラブとも交渉があったと見られている。

 アカウント保有者の正体すらわからないことも多いこの電子メールの大洪水は、アウラキの影響力を評価するためアメリカの情報機関がふるい分けなければならなかった一次情報の圧倒的な量の一端に過ぎないと、匿名の政府関係者は言う。情報機関が膨大な情報量に圧倒され、潜在的に重要な関連も見逃しかねない現状もこれで説明がつくかもしれない。

 米情報機関は9・11テロのすぐ後からアウラキを監視してきた。航空機乗っ取り犯の2人か3人と事前に接触があったらしいことがわかったからだ。アメリカ生まれのアウラキは9・11の後アメリカを離れ、最初はイギリス、そしてイエメンに居を移した。

外国人容疑者探しは二の次だった

 昨年11月のフォートフッド銃乱射事件前の数カ月間には、ハサンとアウラキの通信が傍受されFBIなどが通報を受けていたが、結局大がかりな捜査を行うほどの情報ではないと放置された。今から思えばかなり疑わしいものもあったと、乱射事件の捜査の内情に詳しいある人物は言う。

 米治安当局は今、アウラキとアブドゥルムタラブの間で交わされたと疑われる電子メールや電話の記録に多大な関心を寄せている。もっとも現時点では、彼らが電子メールで接触していたという明確な根拠はないと、一部の治安当局者は言う。本誌最新号で報じた通り、捜査当局は代わりにアウラキとアブドゥルムタラブと思しき人物との電話記録に注目している。

 捜査当局は、米情報機関が昨年夏に傍受したイエメンのアルカイダ幹部の通話の相手もアウラキだったと疑っている。彼らは、ナイジェリア人を使ったテロ計画について議論していた。だが米政府関係者によれば、情報機関の間でこの通話は緊急を要するものと見なされず、会話に登場したナイジェリア人がアブドゥルムタラブである可能性にも、彼がテロ未遂で逮捕されるまで気づかなかった。

 フォートフッド銃乱射事件が起きた後、米当局はアウラキについて収集した一次情報を全力で見直していた。だがここでも、アウラキと接触があったかもしれない人物としてアブドゥルムタラブが捜査線上に浮かぶことはなかった。治安当局者によると、情報機関はハサンのようなアメリカ人容疑者を見つけ出すことを最優先していた。アウラキと接触している「数万人」の外国人のなかから潜在的脅威を探し出すことは二の次だったという。

点が無数にあり過ぎてつながらない

 情報当局者が4日に本誌に語ったように、「誰もがアウラキの重要性は理解している。ホワイトハウスも言っているように、アウラキとアブドゥルムタラブとの間に明確なつながりはなかった。それが問題だ。あったのは曖昧でバラバラの情報だけだ。後から振り返ればそこにつながりが見えるが、当時は何一つはっきりしなかった」

 アウラキを取り巻く通信量の膨大さは、米当局が点と点を結ぶことに失敗し、アブドゥルムタラブが昨年12月25日にアムステルダム発デトロイト行きのノースウエスト253便に乗り込むのを止められなかった理由の説明になるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中