最新記事

地球温暖化

コペンハーゲン会議が残した3つの教訓

2009年12月22日(火)18時55分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

交渉相手を利するオバマ外交

 最後に、コペンハーゲンでの対応から、オバマの外交スタイルや政治への姿勢全般が浮き彫りになったという点を指摘しておきたい。

 雄弁家のオバマは野心的な目標を設定し、短い期限を設ける(大統領一期目にパレスチナ問題で2国家共存を実現したいと語ったのを思い出してほしい)。そして、そうした高尚な目標が(当然)実現できないとわかった時点で可能な選択肢に飛びつき、「前進する」必要性を説く。欠陥だらけの医療保険改革案や写真映り重視の中東外交、妥協ばかりのアフガニスタン政策がいい例だ。

「コップの水が半分残っている」という前向きな解釈をすれば、COP15の結末は完全なこう着状態を回避し、オバマが完全かつ明白に失敗したという印象(事実かもしれない)を残さない一助となったといえる。

 医療保険改革をみればわかるように、何もしないよりはマシという程度の改革は実際にある。温暖化問題の複雑さや、三権分立の制約によってオバマが大胆な行動を取れない事実、米政府内にある複数の拒否権システムなどを考えあわせれば、今回の合意は「最もマシ」な落とし所なのかもしれない。

 だが「コップの水が半分しか残っていない」という解釈をすれば、別のストーリーが見えてくる。オバマは高尚な目標をあまりに多く掲げ、メンツを保つために取引に応じる意欲をあからさまに示してしまった。

 おかげで、オバマは絶対に交渉の席を立たないという印象を敵対勢力に与え、時間稼ぎをして交渉をできるだけ引き伸ばせば、より有利な条件を引き出せると思わせてしまった。「敵対勢力」が米共和党であれ、中国であれ、アフガニスタンのカルザイ政権であれ、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相であれ、イランであれ、これは重大な問題だ。

 さらに困ったことに、オバマには交渉の途中で介入する癖がある。シカゴのオリンピック招致活動と同じく、COP15でもその傾向は見られた。温暖化問題がそれほど重要ならもっと長期間コペンハーゲンに滞在すべきだったし、合意に達しないことがわかっていたのなら、そもそもコペンハーゲンに行くべきではなかった。
 
 もっとも、私が何より懸念しているのは、オバマが不利な選択肢のなかから最善を尽くしたにもかかわらず、いい結果には程遠いということだ。
 
Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog, 22/12/2009.©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米中緊張緩和の兆候で 週

ビジネス

米国株式市場=4日続伸、米中貿易摩擦の緩和期待で 

ビジネス

米中、関税協議巡り主張に食い違い 不確実性高まる

ワールド

ウクライナ、鉱物資源協定まだ署名せず トランプ氏「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中