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イタリア

集団セックス殺人の「推定有罪」

司法の判断はともかく、世論という法廷ではノックス被告は有罪判決を受けたに等しい

2009年12月3日(木)17時03分
バービー・ナドー(ローマ支局)

天使か悪魔か 公判に姿を現したノックス被告(11月30日) Alessandro Bianchi-Reuters

 アマンダ・ノックスといえば、イタリアやアメリカ、イギリスでは誰もが知る名前だ。みんな顔を見ればノックスだとすぐ分かるし、彼女が犯したとされている犯罪はつとに有名だ。

 22歳のノックスはアメリカのシアトル出身。2年前、イタリア留学中にイギリス人のルームメイト、メレディス・カーチャーに性的暴行を加えたうえで殺害したとの罪に問われている。

 イタリアのペルージャで裁判が始まったのは今年1月。判決は12月4〜5日に出るとみられている。もし有罪となれば、終身刑を言い渡される可能性が高い。もし無罪なら、すぐにシアトル行きの便に飛び乗るだろう。大勢のジャーナリストをお供に連れて。

 だがたとえ刑を免れたとしても、ノックスのイメージはすっかり傷ついている。彼女はもはや、人々からどう見られるかを自分でコントロールすることはできない。

 メディアではノックスは「天使の顔をした悪魔」として描かれることもあれば、「どこにでもいるさわやかな女の子」だと伝えられることもある。報道は過熱した。イタリアではしばしば、ノックスの写真が新聞の第一面を飾り、イギリスの大衆紙は彼女のことを性悪女のように書き立てた。

 多くのブログで取り上げられ、事件をネタにした本は6冊も出た。テレビ局はドキュメンタリー番組を作った。ブロガーも作家も番組制作者もみんな、事件やノックスへの世間の強い関心を利用して金を稼ごうとしている。

 ノックス自身、本の出版交渉をしている最中だとの話もある。彼女の人生を描いた映画の計画までうわさされている。まだ22歳だというのにだ。

 ノックスという人物をめぐってはすでに報道しつくされた感があるが、まだ謎の部分も残っている。

 着る服やメディアへの応対について批判されることもある(バレンタインデーの公判に『愛こそすべて』と書かれたピンクのTシャツ姿で出廷したり、法廷に入るたびにカメラの前で微笑んでポーズを取ったりしているからだ)。カメラはしばしば、公判中にノックスがノートに何を書いているかまで撮影している。

家族の行状もすべて報道

 論告求刑で検察はノックスのことを「極悪非道で悪魔のような女」だと述べ、強い性的欲求から強姦と殺人に及んだと主張した。長きにわたった公判のなかで、検察側の証人はノックスの身だしなみや性生活、使っていた大人の玩具について証言を行なった。

 ノックスが感情をあまり表に出さないとメディアは「冷淡」だと報じ、逆にあらわにすれば「変人」扱いした。故郷シアトル時代の生活もほじくり返され、ペルージャにやってきた家族の行状も逐一、報道された。

 ノックスの弁護団は最終弁論の大半をメディア批判に費やした。「彼女は世論という法廷でも裁かれてきた。われわれはそれをまともに取り合わないようにしてきたが」と、ノックスの弁護士のカルロ・ダラベドバは12月1日、陪審員に向かって訴えた。

 もっともノックスの両親は、裁判が始まってからというものアメリカのテレビで娘の弁護をしてきたのだが......。「世論の戦いに勝つのは不可能だ」

 イタリア当局も法廷闘争を開始した。11月27日、イタリアに到着したノックスの両親は自分たちが名誉毀損罪で捜査対象になっていることを知らされた。イギリスの新聞に対し、娘は警察に殴られたと語ったためだ(ノックス自身は警官に殴打されて嘘の供述を強要されたと述べているが、弁護団は警察の違法行為を申し立ててはいない)。

 ペルージャ警察にとっては、先手を打って告発することは殴打の事実を否定するとともに、イタリア国民に対してノックスの供述が強要されたものではないことを印象づける目的がある。

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