「楽勝」アフガン大統領選で不正の愚
対立候補のアブドラは眼科医。彼は90年代のアフガニスタン内戦でタリバンと対峙した北部同盟のタジク人軍閥と非常に近い関係にある。タジク人軍閥は今もアフガニスタン北部を支配し、アブドラの有力な支持基盤となっている。
カルザイもこの北部の民族票を巧みに狙った。ただし道徳的な問題を指摘されるようなやり方で。
例えばカルザイが副大統領候補に据えたタジク人で北部同盟の元司令官カセム・ファヒムは、麻薬密輸ビジネスとの関係が疑われる人物だ。さらにウズベク人軍閥で悪名高いアブドル・ラシド・ドスタムを亡命先から帰国させ、支持を取り付けた。ほかの少数民族ハザラ人にも閣僚や地方長官ポスト、州の新設、北部同盟の司令官の顔を紙幣に印刷する約束までして協力を仰いだ。
不正投票も管理できないカルザイ
こうしてパシュトゥン人の有力部族の出であるカルザイは強い支持基盤を得た。テレビ出演が多く、知名度が高いカルザイが決選投票でも勝つのは確実だった。
だが、それでは十分ではなかったらしい。実入りのいい職を手放したくないカルザイの手先たちは、運任せにはしなかった。人気下降中のカルザイが、人気上昇中のアブドラとの決選投票を避けるには、公平な選挙を行うわけにはいかなかった。
タリバンが南部と東部で展開した有権者への容赦ない脅迫は、結果的にカルザイに有利に働いた。有権者の多くは恐怖から投票に行かず、選挙管理委員も追い払われた。投票する人もまばらな、あるいは書類上でしか存在しない投票所では、架空票を入れ放題の状況となった。
カルザイは部下の計画に関与していなかったかもしれない。だが投票日に部下の行動も掌握できなかったという事実は、タリバンの暴動や経済復興などの諸問題に立ち向かって国をリードする能力のなさを物語る。選挙を合法に行うことすらできないカルザイ政権に、国民が強く望んでいる治安の回復や良い統治、国の発展など実現できるはずがない。
公正な決選投票を行えば、カルザイは勝利できたはずだ(楽勝ではなかったかもしれないが)。それなのに大恥をさらし、政権の威信をさらに傷つけた。国民の目には、もはや民主主義そのものが揺らいで見える。
駐アフガニスタン米大使カール・アイケンベリーは9月7日、カルザイにはっきりと「勝利宣言はするな」と忠告した。確かに相手陣営が不正を訴えているときに先走って勝利宣言したら、怒ったアブドラの支持者を刺激し、抗議行動に発展する恐れがある。
とはいえ、カルザイが形式的には第1回投票で勝利した今となっては、アメリカや同盟国が彼に正しい道を選んで決選投票に応じよと説得するのは難しいだろう。
カルザイは必要のない苦境を自ら招いてしまったようだ。
[2009年9月23日号掲載]