最新記事

米外交

イラン「核の罠」に落ちたオバマ

第2のウラン濃縮施設の存在が発覚したが、窮地に追い込まれたのはイランではなくアメリカのほうだ

2009年9月29日(火)18時06分
ブレイク・ハウンシェル(フォーリン・ポリシー誌マネジングエディター)

開き直り 秘密の核施設を非難されたイランのアハマディネジャド大統領は「平和目的」だと反論した(9月25日) Lucas Jackson-Reuters

 先週、イランがテヘラン南西のコム近郊の山間で第2のウラン濃縮施設を建設中であることが発覚し、世界に衝撃が走った。

 20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)でこの事実を明かし、イランを非難する声明を発表したバラク・オバマ米大統領の対応は、一般的には大成功とみなされるだろう。国連安全保障理事会常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランによる核問題の直接協議が10月1日に迫るなか、イラン政府への圧力は一段と強まり、ロシアもようやく追加制裁に同意すると期待できるからだ。

 米政府の関係者はそろってオバマの対応を評価している。「イラン人に難題を突きつけた」と、ロバート・ゲイツ国防長官は9月27日に語った。

 しかし、自画自賛するのは早い。イランが直前の9月21日に国際原子力機関(IAEA)に新施設の建設を通告していたことを考えれば、オバマには情報を公開する以外に選択肢はなかったのかもしれない。

 だが今となっては、難題を突きつけられているのはオバマのほうだ。情報を公開することで、オバマは自らを窮地に追い込み、イスラエルによるイラン攻撃の可能性を高めてしまった。

経済制裁に及び腰な中国の事情

 まず、ロシアが本当に制裁に同意したのかという疑問がある。確かにドミトリー・メドベージェフ大統領は、先週のオバマとの会談で経済制裁を容認した。大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のジェームズ・ジョーンズが、ロシアのセルゲイ・プリホジコ大統領補佐官に、新施設の情報を伝えていたことも分かっている。

 分からないのは、ウラジーミル・プーチン首相の考えだ。昨年、グルジア戦争の指揮を取るため北京オリンピック観戦を急遽切り上げたことを考えれば、プーチンが今も強い権力を握っているのは明らかだ(プリホジコはメドベージェフの補佐官だが、プーチンの「耳」としてメドベージェフの訪米に同行した可能性が高い)。

 中国の反応も気がかりだ。G20の会場で、オバマとゴードン・ブラウン英首相、ニコラ・サルコジ仏大統領はそろってイランを厳しく非難したが、中国は弱腰な発言に終始した。

 イランは石油産油国だが、ガソリンなどの石油精製品を大量に輸入する必要がある。だが中国は石油の15%をイランから輸入しており、国連の経済制裁が意味のあるものになるかどうかはまったく未知数だ。

空爆をほのめかすイスラエルの真意は

 しかも忘れてはならないのは、最終的な目的は制裁を課すことではなく、イランに核開発の野望を諦めさせることだという点だ。

 イランの指導者の立場で考えてみよう。技術的に重大なハードルは残っているものの、核開発の夢は少しづつ現実になりつつある。北朝鮮の動きを注視してきた結果、2度の核実験の後でさえ金王朝は崩壊しておらず、国際社会が提供する「ニンジン」(報酬)は一段と手厚くなっている。そのうえ、いったん核を手に入れれば、銀行口座の凍結や航空機部品の禁輸などの問題も一気に片付きそうだ。

 一方、制裁がさらに強まる状態も悪くはない。手元には石油があり、諸外国はそれを必要としている──。

 つまり、イランは世界から隔絶されても困らないのだ。彼らから見れば、グローバリゼーションは穏健派やリベラル勢力に力を与えるだけの邪悪なものだ。

 ただし、予測できない要素がある。イランへの空爆も辞さないとしているイスラエルだ。

 イスラエルにはイランの核施設を全滅させる力はないと、多くの専門家が指摘している。しかも空爆が戦術的に成功したとしても、イランの核開発を遅らせるだけで、破壊することはできない。

 だが、イスラエルには別の狙いがある可能性もある。彼らのゴールはイランに核開発を断念させることではなく、空爆で混迷を極めるイランを国際社会(アメリカのことだ)に押し付けることかもしれない。イランの核兵器保有を「自国の存亡に関わる脅威」とみなすイスラエルにとっては、イランがイラクやレバノン、ペルシャ湾岸地域に報復攻撃をしようと、石油価格が高騰しようと大した問題ではないのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中