アホの双璧、チャベスとストーン
最新作でベネズエラ大統領を英雄と持ち上げたストーン監督が見ようとしない、チャベスの危険な野望
上機嫌 ベネチア映画祭で『サウス・オブ・ボーダー』プレミア上映会に出席したチャベス大統領(左)とストーン監督 Alessandro Bianchi-Reuters
朝のテレビ番組が大々的に取り上げたベネチア国際映画祭のニュースといえば、俳優のジョージ・クルーニーの話だろう。記者会見場に来ていた同性愛者のイタリア人男性がいきなり服を脱ぎだし、クルーニーにキスを求めたのだ。
だが、ベネチアではもっと大きな事件も起きていた。あのベネズエラのウゴ・チャベス大統領が、ハリウッド映画の主役として映画祭の会場に姿を現したのだ。
クルーニー同様、チャベスも熱狂的なファンに囲まれていた。ただしチャベスの場合、いちばん熱い視線を送っていたのはオリバー・ストーン監督。ストーンはチャベスへのラブレターでもある最新作『サウス・オブ・ボーダー』の宣伝のためにベネチアを訪れていた。
エール大学の出身者のなかでジョージ・W・ブッシュ前大統領にも負けないトップクラスの問題児、それがストーンだ。
チャベスを追ったドキュメンタリーである『サウス......』も「歴史的事件に題材を取ったフィクション」の大家、ストーンらしい作品だ。ストーンの特徴は、作り話と事実を区別する能力がないこと。『JFK』(91)がいい例だし、『ニクソン』(95)や『ブッシュ』(08)もしかりだ。
『サウス......』について、タイム誌はこう評している)。
一貫してストーンはチャベス大統領の側に立っている。アムネスティ・インターナショナルはベネズエラに関する09年の報告書で「ジャーナリストへの攻撃が広がり、人権擁護活動家への嫌がらせも続いている。刑務所の状況は各地でハンガーストライキが起きるほどだ」と同国の問題を指摘したが、こうした扱いが難しい話題はいっさい取り上げられていない。
バラエティ誌によれば、ストーンはこう言ったという。「チャベスは不当に扱われている。欧米のメディアに出てくる彼は、とんでもない風刺漫画(のようなイメージ)ばかりだ」
本当に「とんでもない」のだろうか。結論を出す前に、ここ数日の世界各地のメディアに登場したチャベスのニュースを見てみよう。
行く先々で爆弾を投下するチャベス
まずはちょっと笑えるものから。ベラルーシを訪問したチャベスは9日、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領(似たもの同士だ)と会談した。AFPによれば
チャベス大統領は9日、やはり欧米に批判的なことで知られるベラルーシとの良好な関係を誇示し、旧ソ連型の国家連合の結成まで提案した。
ミンスクで行なわれたチャベスとルカシェンコ大統領の会談は気さくなムードで行なわれ、近い将来、両首脳がベネズエラ各地を旅することも提案された。
ベラルーシ大統領府の声明によれば「われわれは新たな国家連合を作るべきだ」とチャベスはルカシェンコに語ったという。
ただしその後のチャベスの動きはこれほど笑えない。ロシアを訪問中のチャベスはドミトリー・メドベージェフ大統領らと予定されている会談で、さらなる武器の供与や軍事協力、エネルギー取引について話し合う意向だという。
さらに不吉なのは、イスラエルのガザ攻撃を虐殺だと非難して激しい議論を巻き起こしたことだ。
「イスラエルに、パレスチナ人を根絶やしにする意図があるかどうかなど考えるまでもない」と、9日付のフィガロ紙のインタビューでチャベスはこう語った。(中略)「あれが虐殺でなかったら何なのか。イスラエルはパレスチナ人を根絶やしにする口実を探していた」とチャベスは言い、イスラエルへの制裁を行なうべきだと付け加えた。
ストーンはたぶん、こうした過激な発言にも同意するのだろう。
若手女優をもてあそぶ監督も世の中にはいるが、ストーンの場合は歴史的事実をもてあそんできた。彼は事実をきちんと掘り下げて考えないがゆえに、自分の映画の主人公が中東地域におけるトラブルの主役たちたちとねんごろになっていることに気がついていないのではないだろうか。