不機嫌な中国のアメリカ離れ幻想
政府は反米ナショナリズムを警戒
中国政府が今のところドル離れと分散投資に及び腰なのも驚くにあたらない。本気でやれば、アメリカ人が中国製品を買うのは難しくなる。
中国の銀行は今、米国債でも30年物より10年物を購入するなどより短期の投資にシフトしている。短期的に危機を招くことも長期的に対米投資を増やすことも、どちらも望んでいないということだ。
『不機嫌な中国』派の主張の1つは、中国指導層のエリートはアメリカと親しくし過ぎて腐敗し、西側製品のとりこになったというもの。その主張は中国3億人のネチズンが見る数千のブログで流布されている。こうしたブログを「サイバーナショナリズム」の一形態と見て、中国政府関係者も注意深く監視している。
独立を求める世論をなだめるような政策もいくつか出てき始めた。コカ・コーラが中国最大手のジュースメーカー中国匯源果汁を23億ドルで買収しようとすると、中国政府が待ったをかけた。表向きは、独占禁止法に違反し競争を妨げるという理由からだ。
他のアメリカ企業にも、中国当局はかつてのように便宜を図ってくれなくなった。化粧品の訪問販売で大成功を収めているエイボン・プロダクツは、同社の訪問販売員に不適切な行為があったとされ社内調査を進めている。本当に何かがあったのかもしれないが、中国市場で外国ブランドが目立つことに対する中国当局の不快感の表れというほうが考えやすい。
「何でも民主主義のせいにするな」
6月初めには、中国企業がゼネラル・モーターズ(GM)のSUV(スポーツユーティリティー車)ブランド「ハマー」を買収すると発表した。アメリカ企業から国内市場の支配権を奪回したいという野心の表れだ。
それでも、中国が独立路線を追い求めればいずれ自ら深手を負うことになる。インテルやナイキなどの外国企業が建設し運営する工場は雇用の源泉の1つであり、その製品は中国の輸出のなかでも大きなシェアを占める。
中国政府は、大手の外国人投資家を切り捨てはしないし、中国からの対米投資を止めることもないだろう。中国の外貨準備を吸収できるほど大きな市場はほかにない。
モルガン・スタンレーが最近、米政府から受けた公的資金を返すために新株を発行したとき、政府系ファンド(SWF)の中国投資有限責任公司(CIC)は、12億ドルで4400万株を買った。対米投資に対して敵意をあらわにしている大衆レベルの言説とは好対照を成す取引だ。
実際、『不機嫌な中国』に対する反響のすべてがその愛国主義的な主張に賛同しているわけではない。あるブログは次のように書いている。「この種の本はいつでも何でも民主主義のせいにして、何の役にも立たない」「不公平だと文句を言う代わりに自分たちの問題に対処すれば、経済危機に苦しむ企業や、就職できない学生や、腐敗などなかったはずだ」
それこそ、中国政府が直視しなければならない問題だ。
[2009年7月 8日号掲載]