最新記事

イラク

マリキの訪米を喜ばない政敵たち

アメリカの支援を欲するイラク各勢力は、首相の行動を猜疑の目で見守っている

2009年7月22日(水)19時35分
ラリー・カプロウ(バグダッド支局)

意外にコワモテ 宗派も民族もバラバラの政府を率いるマリキ首相(左から3人目。09年6月、バグダッド) Thaier al-Sudani-Reuters

 イラクのヌーリ・マリキ首相は22日からの訪米で、イラクで戦死した米兵を追悼するためワシントン郊外のアーリントン墓地を訪れる。今回の訪米自体がそうだが、この式典は見る人によって意味合いが異なる。アメリカとの間に摩擦があり、いまだ不安定でいつ爆発してもおかしくない国であるイラクの国内政治の影響からだ。
 
 06年にマリキが首相に選ばれたのは、宗派や政党の存在を脅かす力がない無害な人物とみらていたからだった。だが彼は、予想以上に自分が手ごわい存在であることを見せつけてきた。過激派に戦いを挑み、サダム・フセイン元大統領の処刑を迅速に進め、彼が党首を務めるシーア派のダワ党は今年1月の地方選挙で圧勝。イラク人の特殊部隊を自身の指揮下に置き、部族長らを味方にするために政府資金も使ってきた。

 しかし戦死した米兵を追悼する今回の訪米は、たとえアメリカとの関係強化が目的だとしても、イラクの政治家には問題をはらんだ行為と映る。多くのイラク人は米軍が独裁者であるフセインを打倒したことは喜んでいるが、何十万人というイラク人を拘束し、最近までイラクの混沌を許してきたアメリカ人については違った感情で見ている。

 6月30日に米軍がイラクの都市部から撤退したとき、マリキたちはあたかも占領軍から解放されたかのように振る舞い、アメリカ人の一部をがっかりさせた。ただイラク駐留米軍のレイ・オディエルノ司令官によれば、マリキは過去の駐留米軍司令官に感謝を示した。さらに戦死した米兵の犠牲を認めるというアイデアは、マリキ側から出たものだという。

米最大の関心はイラクの治安問題

 イラクでは今回の訪米は違った立場から宣伝されている。「今、イラク人とアメリカ人の血は交わっている」と、マリキ政権の顧問で連邦議会議員でもあるハイデル・アル・アバディは言う。「浮き沈みはあったかもしれない。米軍のやり方に反対意見もある。ただ07年以降、(イラク軍と米軍は)共に動き出した。占領時のすべての出来事を乗り越えようとしている」

 イラクが安定化する前にアメリカが軍と金を引き上げることを懸念する米政府の高官は、マリキがアメリカ国民に対して感謝の意を示すのを見たいはずだ。だがほとんどのイラク人は不快感を覚えるに違いない。

 「私のアメリカ人に対する気持ちは自分でもよくわからない」と、事務員の仕事をするシーア派のハモウディ・カシム(40)は言う。「サダム・フセインを追い出すことがアメリカの利益にならなかったら、行動を起こさなかったはずだ。私にとってアメリカ人に感謝するかしないかは関係ない。彼らはこの地域で彼ら自身の国益を追求しているのだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中