最新記事

朝鮮半島

テポドン2号はまだ発射できない

アメリカ独立記念日の7月4日に北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射実験を行えないこれだけの理由

2009年7月3日(金)16時56分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

高まる警戒 38度線に近い監視所に設置された北朝鮮のミサイル図(韓国坡州市) Jo Yong hak-Reuters

 北朝鮮が7月2日に4発の短距離ミサイル発射実験をしたのは、アメリカの独立記念日(7月4日)を間違えたのだろうか。北朝鮮がアメリカ本土に到達する能力をもつ長距離弾道ミサイルの発射実験を行うという憶測が強まっているが、米政府の専門家によれば、独立記念日までにその準備は間に合いそうにない。

 5月に北朝鮮が2回目の核実験を実施してから、欧米諸国は大陸間弾道ミサイル(ICBM)として使えるテポドン2号(またはウンハ2号)の発射実験をするのではないかと警戒してきた。専門家によれば、3段階の切り離し実験に成功すれば、アラスカやハワイ、アメリカ本土の一部に到達する可能性がある。

 北朝鮮は4月にテポドン2号と見られるロケットの発射実験を実施した。しかし日本の上空を越えたところで、3段目は切り離しに失敗したとみられている。おそらくは金正日(キム・ジョンイル)総書記の健康問題をめぐる権力闘争の結果、最近の北朝鮮はアメリカや他の国に対する脅迫的な行動を繰り返している。アメリカ国防総省の関係者によると、独立記念日にぶつけたテポドン2号の発射実験を警戒する米軍は、特にハワイ周辺でミサイル防衛システムの準備態勢を強化した。

 しかし本誌の取材に応じた2人の国防総省関係者(機密事項に関わるため匿名を希望)は、発射台でのロケット組み立て作業を終えていないため、北朝鮮が独立記念日に発射実験を行うのは実質的に不可能だと語った。

ロケットの組み立てには時間がかかる

 アメリカ政府の専門家は、北朝鮮のテポドン2号発射実験用とみられる組み立て作業を監視している。しかしロケットはまだ部品の状態で、前述の2人の国防総省関係者によれば、完成には数日から数週間はかかる。

 さらに完成したロケットが発射台に乗せられても、液体燃料を充填するのにさらに数日かかる。ロケットの組み立てと燃料充填のすべての過程は、スパイ衛星や欧米諸国の偵察機だけでなく、民間の商用衛星が撮影した写真でも簡単に確認できるという。

 入手できる証拠から判断すると、例え北朝鮮がテポドン2号の発射準備を進めていたとしても独立記念日には間に合わない。早くても次の実験は数週間後になるだろう。つまり独立記念日の花火がハワイやアラスカ、西海岸の夜空を染めても、それは北朝鮮のミサイルではないということになる。

 北朝鮮がICBMの原型と思われるロケットの発射実験を行ったとしても、多くの米政府関係者はそのロケットがアメリカ領土まではおそらく到達しないと考えている。いずれにしてもほとんどの専門家は、北朝鮮がハワイやアメリカの領土に向けて意図的にミサイル実験を行うことには懐疑的だ。ロバート・ゲーツ国防長官らがミサイル防衛の強化を打ち出したのは、ミサイル防衛システムの規模縮小を危惧する共和党や民主党保守派向けのデモンストレーションだ、と言う政府関係者もいる。

就任後変わったオバマ政権の方針

 08年の大統領選挙の期間中、バラク・オバマ大統領は公式サイトで、アメリカが早急にミサイル防衛を進めることに疑問を投げかけた。「オバマ政権はミサイル防衛を支持する」と言いつつ、「その開発は実用的でコストに見合ったものにする。ミサイル防衛技術がアメリカ国民を守れるとわれわれが確信するまで、ほかの国防政策から財源を割かない」と述べていた。

 本誌が以前報じたように、同様の文言は大統領就任後のホワイトハウスのサイトにも掲載されていた。

 しかし今になってサイト内検索をかけてみると、より強くミサイル防衛を支持する声明が見つかる。「アメリカと同盟国の軍隊を守るために、戦域ミサイル防衛システムを強化する。これには終末高高度防衛システム(THAAD)や艦対空ミサイル、イージス艦の追加配備なども含まれる」。オバマ政権の新たな政策方針が、北朝鮮や他国の最近の動きに関連したものかどうかは分からない。

 独立記念日のミサイル実験がなさそうだとしても、国防総省は警戒を続けている。「北朝鮮のミサイル関連活動を引き続き注視している」と、ジェフ・モレル報道官は言う。「北朝鮮の前回の発射実験は失敗だったが、国防総省は油断していない。最近ハワイに戦力を追加配備してミサイル防衛を強化した。北朝鮮が仮に再び国際社会を無視して発射実験を試みても、わが国民を傷つけることはできない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中