シリアとの対話に勝機あり
ハマス支援の打ち切りも
イスラエルにとってシリアとの和平は長年の懸案だ。エジプト、ヨルダンとはすでに和平協定を結んでおり、シリアと協定締結にこぎつければ、国境を接する周辺国で「敵対的な国家」はレバノンのみとなる。そうなればハマスやヒズボラやイランなど、安全保障上の他の脅威への対応に集中できる。
しかもイスラエルにとっては、パレスチナよりシリアとの和平のほうがハードルは低い。ゴラン高原に住むイスラエル人は何十万人単位ではなく数万人だ。パレスチナ自治区のヨルダン川西岸やガザと比べて面積もはるかに小さいし、戦略的重要性はあっても宗教的に重要な土地ではない。
ゴラン高原をシリアに返還してこの地を非軍事化すれば、イスラエルの安全保障体制は強化されるはずだ。ゴラン高原での不穏な動きは、ハイテクを使った偵察システムで監視できる。
国際平和維持部隊の駐留が決まれば、シナイ半島に展開する平和維持軍がエジプトとイスラエルの和平を支えているように、シリアからの攻撃を防ぐ役目を果たすだろう。基盤の弱いパレスチナ自治政府と異なり、シリアの指導部は強い権力をもつ。安全保障上の取り決めは守り通せるはずだ。
イスラエルには譲歩する動機がもう一つある。シリアがパレスチナに及ぼす影響力だ。
ダマスカスはハマスの拠点であり、シリア政府はハマスを支援している。WTO(世界貿易機関)加盟や経済制裁の解除を望むシリアが、アメリカや穏健派のアラブ諸国との関係正常化のために、ハマスへの支援を手控えるという筋書きもありうる。
オバマの仲介が不可欠に
いずれにせよ和平実現には、外部からの働きかけが必要だ。トルコはたびたび両国に交渉の場を提供してきたが、トルコだけで交渉を実らせることはむずかしい。アメリカ政府の関与が不可欠だ。
ブッシュ前政権は長期にわたりシリアを事実上の「悪の枢軸」扱いし、厳しい制裁を科してきた。だがシリアとの対話拒否の姿勢はアサドの政権基盤の切り崩しにはつながらず、アメリカの影響力の低下を招いただけだった。
シリアのイマド・ムスタファ駐米大使は2月26日、ジェフリー・フェルトマン米国務次官補代理と会談した。これは正しい方向へ向けての第一歩だ。
シリアとの和平実現は困難だろうが、それなしで中東和平は実現できないだろう。対話は道具であって、ほうびとして与えるものではないというバラク・オバマ米大統領の主張は正しい。今こそ対話という手段を使って、何ができるか試してみるべきだ。
[2009年3月11日号掲載]