核の脅威を止める21世紀の抑止力
核兵器の製造元を特定する「核鑑識」技術は北朝鮮などからの核流出を防げる唯一の方法だ
ならず者 軍事施設を視察する金正日
KCNA-Reuters
4月初めの「発射実験」を予告し、核兵器開発に突き進む北朝鮮。テロリストの手に核兵器が渡る可能性が高まる今、核攻撃の責任を流出元の製造国に負わせる新たな枠組みが必要だ。一方、海上型MDは果たして機能するのか。
北朝鮮は07年、核開発問題に関する交渉をアメリカと行う一方で、シリアに核開発の技術や設備、核物質を提供した。そのおかげでシリアは核兵器の製造につながる原子炉を建設できたとされる。
これが明らかになったとき、アメリカの外交官や核の専門家は金正日(キム・ジョンイル)総書記の背信行為に驚きを隠せなかった。その後イスラエルは、原子炉とみられていたシリアの施設を爆撃した。
北朝鮮は今もしたたかだ。4月4〜8日に「通信用の人工衛星」を打ち上げると予告した。長距離弾道ミサイルの発射実験を強行する構えだ。アメリカや日本、韓国は「国連安全保障理事会の制裁決議に反する」として打ち上げ中止を求めているが、6カ国協議が中断するなかで有効な対策を打ち出せずにいる。
北朝鮮は核弾頭を弾道ミサイルに搭載可能なほど小型化することにも成功したとみられ、緊張は高まっている。
金総書記は何をしようとしているのか? 米政府で安全保障政策にかかわる誰もがこの疑問を重大視している。ロバート・ゲーツ国防長官は最近、「テロリストが大量破壊兵器、とくに核兵器を手に入れる」ことを想像すると眠れなくなると語った。
ウサマ・ビンラディンがニューヨーク攻撃用の核兵器を北朝鮮から1000万ドルで買い、イスラエル攻撃のためにもう1発、2000万ドルで買ったとしたら......。こんな事態が起きないようにするためには、実効力のある対策で北朝鮮を封じ込めるしか道はないと、米政府当局は考えている。ぐずぐずしている暇はない。
核兵器がテロに使われる可能性は、ジョージ・W・ブッシュ前大統領が政権に就いたときより高くなっているのだろうか。超党派議員でつくる大量破壊兵器拡散・テロ防止委員会は今年2月、「アメリカの安全レベルは低下している」と警告した。
仮にニューヨークが核攻撃を受けた場合、核燃料が製造されたのが寧辺の原子炉と特定できれば、新しい有効な核抑止策となる。場合によってはウラン鉱石を採掘した鉱山まで特定することも必要だ。こうした「核鑑識」の概念の背景には、北朝鮮の政府高官に核拡散の代償が高くつくことをはっきり伝えるねらいがある。たとえば想定されるのは、北朝鮮の高官2人がビンラディンからの申し出のメリットを議論する場面だ。
一方を「タカ派」、もう一方を「臆病なタカ派」と名づけよう。金総書記の面前で議論はこんなふうに進む。「申し出を受けるべきです」とタカ派が言う。「親愛なる首領様のご指導の下、 10発の核兵器を製造しました。そのうち2発を売っても8発は残ります。アメリカや韓国がわが国に侵攻したり、政権を転覆させたりするのを防ぐにはそれで十分です。それにわれわれには外貨が必要です」
この主張に臆病なタカ派は戦慄する。「もしアルカイダが核兵器をニューヨークの真ん中で爆発させ、50万人の犠牲者が出たら、アメリカは北朝鮮を地図から消し去ろうとするのではないか?」
タカ派は椅子の背にもたれて不敵な笑みを浮かべる。「アメリカには核兵器の出所はわかるまい。ビンラディンが潜伏しているパキスタンでも手に入る」
現状ではタカ派が優勢だろう。米当局としてはこの状態を逆転させたい。
核物質を製造した国に管理責任を負わせられれば、新たな「均衡」をつくり出すことができる。アメリカとソ連が対峙した冷戦下では報復攻撃の恐怖が核ミサイルの発射を防いだ。「相互確証破壊」と呼ばれるこの均衡によって何十年間も平和は維持された。この均衡の成立には核ミサイルの出所がはっきりしている必要があった。
闇市場で売買されるプルトニウムの製造元を特定するのはそれより困難だが不可能ではない。科学者がその手法を確立しつつある。