最新記事

BOOKS

韓国のキム・ジヨンに共感する、日本の佐藤裕子たち...小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の爆発的ヒットの背景とは?

2024年11月02日(土)09時30分
崔 誠姫(大阪産業大学国際学部准教授)

ジヨンは稼ぎがよく家事や育児にも協力的、法事や帰省時に妻への気遣いもできる夫と結婚し一児の母となる。

一見幸せそうに見える生活ではあるが、結婚・妊娠・出産という人生のステージを経るなかで「失っていく」ものも多かった。ワンオペ育児と義実家への帰省のストレスをきっかけとしてジヨンに異変が起こるところから、物語は始まる。

教育費の高騰、超学歴社会、少子化の問題を抱える韓国は、共稼ぎ夫婦も増えている。とはいえ、ジヨンのように結婚・出産を機に専業主婦となる女性もいるのが現実だ。

女性たちが感じる社会の矛盾、違和感を言語化した小説『キム・ジヨン』の結末は、フィクションでありながらも韓国社会をリアルに描き出したといえよう。映画版と比べてどちらの結末がこの物語によりふさわしいのか、その判断は読者の皆さま各自にゆだねたい。

【関連動画】映画『82年生まれ、キム・ジヨン』本編映像 を見る


 

さて、この『キム・ジヨン』は先述のように日韓そして世界で異例のヒット作となった。

これまで韓国小説といえば、ドラマや映画のノベライズ、李光洙や尹東柱(ユン・ドンジュ)など植民地期に活躍した作家の作品が知られている程度であったが、『キム・ジヨン』のヒットにより書店には多様な韓国人作家の小説が並ぶようになった。

とくに『キム・ジヨン』の著者であるキム・ナムジュの作品、『少年が来る』で知られるハン・ガンなど、韓国フェミニズム小説作家の作品が多く翻訳されている。

『キム・ジヨン』のヒットはK-POPや韓国ドラマに限定されない、韓国社会を知る、新たなツールとして日本でも広まっている。


崔 誠姫(チェ・ソンヒ)
1977年北海道生まれ。2001年東京女子大学文理学部史学科卒業、2006年一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、2015年一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了、博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科特別研究員、聖心女子大学ほか非常勤講師・日本女子大学客員准教授を経て、現在、大阪産業大学国際学部准教授。専門は朝鮮近代史、教育史、ジェンダー史。著作に、『近代朝鮮の中等教育──1920~30年代の高等普通学校・女子高等普通学校を中心に』(晃洋書房、2019年)がある。2024年前期放送のNHKの朝ドラ『虎に翼』で朝鮮文化考証をつとめた。


newsweekjp_20241101062812.png

 『女性たちの韓国近現代史──開国から「キム・ジヨン」まで
  崔 誠姫[著]
  慶應義塾大学出版会[刊]


(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

イベントのお知らせ

崔香淑が生きた時代~近代朝鮮の女子教育をたどる~

『女性たちの韓国近現代史──開国から「キム・ジヨン」』の著者で『虎に翼』の朝鮮文化考証を担当した崔誠姫・大阪産業大学准教授がNHK文化センターでオンライン講座を開催中です。NHK連続テレビ小説『虎に翼』に登場する、朝鮮からの留学生・崔香淑(通称 ヒャンちゃん)と、その時代の女子学生がテーマです。

【講座内容】
■第1回 1920~30年代朝鮮の女子教育の概要
■第2回 女子学生たちの生活~ファッション、読書、日常生活と独立運動
■第3回 あこがれの的、女性教員として:奈良女子高等師範学校卒業生たち 近代医学の伝導者:東京女子医学専門学校卒業生・許英粛(ホ・ヨンスク)

詳細と申込みはこちらから

自動車
DEFENDERとの旅はついに沖縄へ! 山陽・山陰、東九州の歴史文化と大自然、そして沖縄の美しい海を探訪するロングトリップ
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    メーガン妃からキャサリン妃への「同情発言」が話題…

  • 4

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する…

  • 5

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…

  • 3

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 4

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 5

    メーガン妃からキャサリン妃への「同情発言」が話題…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    メーガン妃からキャサリン妃への「同情発言」が話題…

  • 3

    「ハイヒールを履いた独裁者」メーガン妃による新た…

  • 4

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する…

  • 5

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:ウクライナが停戦する日

特集:ウクライナが停戦する日

2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は