韓国のキム・ジヨンに共感する、日本の佐藤裕子たち...小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の爆発的ヒットの背景とは?
ジヨンは稼ぎがよく家事や育児にも協力的、法事や帰省時に妻への気遣いもできる夫と結婚し一児の母となる。
一見幸せそうに見える生活ではあるが、結婚・妊娠・出産という人生のステージを経るなかで「失っていく」ものも多かった。ワンオペ育児と義実家への帰省のストレスをきっかけとしてジヨンに異変が起こるところから、物語は始まる。
教育費の高騰、超学歴社会、少子化の問題を抱える韓国は、共稼ぎ夫婦も増えている。とはいえ、ジヨンのように結婚・出産を機に専業主婦となる女性もいるのが現実だ。
女性たちが感じる社会の矛盾、違和感を言語化した小説『キム・ジヨン』の結末は、フィクションでありながらも韓国社会をリアルに描き出したといえよう。映画版と比べてどちらの結末がこの物語によりふさわしいのか、その判断は読者の皆さま各自にゆだねたい。
■【関連動画】映画『82年生まれ、キム・ジヨン』本編映像 を見る
さて、この『キム・ジヨン』は先述のように日韓そして世界で異例のヒット作となった。
これまで韓国小説といえば、ドラマや映画のノベライズ、李光洙や尹東柱(ユン・ドンジュ)など植民地期に活躍した作家の作品が知られている程度であったが、『キム・ジヨン』のヒットにより書店には多様な韓国人作家の小説が並ぶようになった。
とくに『キム・ジヨン』の著者であるキム・ナムジュの作品、『少年が来る』で知られるハン・ガンなど、韓国フェミニズム小説作家の作品が多く翻訳されている。
『キム・ジヨン』のヒットはK-POPや韓国ドラマに限定されない、韓国社会を知る、新たなツールとして日本でも広まっている。
崔 誠姫(チェ・ソンヒ)
1977年北海道生まれ。2001年東京女子大学文理学部史学科卒業、2006年一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、2015年一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了、博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科特別研究員、聖心女子大学ほか非常勤講師・日本女子大学客員准教授を経て、現在、大阪産業大学国際学部准教授。専門は朝鮮近代史、教育史、ジェンダー史。著作に、『近代朝鮮の中等教育──1920~30年代の高等普通学校・女子高等普通学校を中心に』(晃洋書房、2019年)がある。2024年前期放送のNHKの朝ドラ『虎に翼』で朝鮮文化考証をつとめた。
『女性たちの韓国近現代史──開国から「キム・ジヨン」まで』
崔 誠姫[著]
慶應義塾大学出版会[刊]
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