『マダム・ウェブ』マーベルでもDCでもなくソニーが作った、駄作にして傑作
Pure Superhero Camp
事故で生死をさまよい、予知能力が覚醒したキャシー。未来が見えるマダム・ウェブにも主演作の未来は救えなかったか SONY PICTURES & MARVELーSLATE
<スパイダーマンを持て余したソニーがまたやらかした? 雑然とし、ばかげているのに面白い、スーパーヒーロー「マダム・ウェブ」誕生の物語>
マーベルがスーパーヒーロー映画のコカ・コーラ、DCがペプシなら、ソニーはRC(ロイヤルクラウン)コーラだ。飲みたいものがないときに、無難な選択肢になる。
ソニー・ピクチャーズは、アメコミを象徴するスパイダーマンの映像化権を1990年代末から持っていたが、その貴重な財産を拡張可能なフランチャイズにするどころか、見応えのある映画を1本、作るのにも苦労していた。
スーパーヒーロー映画は、さまざまな物語や主人公の世界観がつながって宇宙(ユニバース)を共有している。2015年にスパイダーマンがマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に加わるという前例のない契約が結ばれ、超人気ヒーローの運命はようやく上向いた。
最近の俳優組合のストライキや観客数の激減を受けて、MCUは劇場公開の予定を見直し、年内の公開は1本のみとなった。DCユニバースは新体制が始動したばかりで、来年公開のスーパーマン映画の準備を優先させている。ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)は年内にコミック原作の映画を3本公開する予定で、このジャンルが少なくとも2007年以来、最も低迷していることは一目瞭然だ。取りあえずRCコーラで乾杯しておこう。
その第1弾が『マダム・ウェブ』だ。救急救命士のキャシー・ウェブ(ダコタ・ジョンソン)は救助活動中に川に落ちて生死をさまよい、未来予知の能力を手に入れる。原作ではその力でスパイダーマンを救うことになる、マダム・ウェブ誕生の物語だ。
いかにもミームを狙った予告編を見て最悪の事態を覚悟していたが、その意味で期待は裏切られなかった。良く言えばそこそこ、悪く言えば支離滅裂。俳優たちはとんでもない作品に出演しているという戸惑いを隠さない。茶番で、災難で、スーパーヒーローと映画の歴史を汚すこの作品を、私は大いに楽しんだ。
映画評論家は趣味が高尚すぎて、どんなものも気に入らないのだと批判されがちだが、その逆もまたしかりだ。毎年数百本の作品を何年も見続けていると、使い古された公式にちょっとひねりを加えただけでも、似たような作品の海に浮かぶ救命ボートのように感じるときがある。
『マダム・ウェブ』の舞台であるニューヨークが本物らしく見えることも、アクションシーンがCGの不穏さをほとんど感じさせないことも、今さら特筆することではない。しかし、このジャンルのトレンドを考えると、時々現れるお粗末な場面が、スーパーヒーロー映画ばかりが作られるようになる前に作られたスーパーヒーロー映画のようで、いかがわしく、雑然としていて何だか面白い。