「タイミング悪すぎ」...ディズニーを悩ませる、イスラエル人女戦士サブラの『キャプテン・アメリカ』参戦
The Trouble with Sabra
コミック版ではイスラエル政府の工作員でパレスチナに恨みを持つという設定のサブラ。物議を醸すキャラクターだけに、映画での人物造形に注目が集まる MARVEL
<映画『キャプテン・アメリカ』の新シリーズ発表直後に、ハマスとイスラエルの戦争勃発。イスラエル人女性ヒーローへの反発が起きないかたちで作品を描くことは可能なのか?>
2022年9月、マーベル・スタジオはシリーズ第4弾『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(原題)に新たなメンバーが加わると発表した。イスラエル人の女性スーパーヒーロー、サブラだ。
この発表は直後から物議を醸したが、今年10月にイスラエルとイスラム組織ハマスとの間に戦争が勃発。マーベルの親会社でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品を配給するディズニーの立場は、ますます厳しくなっている。
10月7日にハマスの奇襲を受けたイスラエルは、報復としてパレスチナ自治区ガザに空爆を開始した。11月11日現在イスラエル側で少なくとも1200人、ガザでは1万1000人以上が死亡したと、AFP通信は報じている。
「サブラが(アメリカの正義を象徴する)キャプテン・アメリカと一緒に戦えば、国粋主義や政治的イデオロギーをあおることは必至で、中東ではいっそう緊張感が高まるかもしれない」と、ケース・ウェスタン・リザーブ大学のディーパク・サーマ教授(哲学)は指摘する。
反発が起きない形でサブラを描写することは可能なのだろうか。
サブラが初めてマーベル・コミックに登場したのは1981年の『超人ハルク』でのこと。ミュータントの彼女は怪力などのスーパーパワーを持つだけでなく、イスラエルの秘密情報機関モサドの工作員という設定だった。コードネームのサブラは「イスラエル生まれの人」を意味する。
25年に全米公開予定の『キャプテン・アメリカ』では、ネットフリックスのドラマ『アンオーソドックス』で知られるイスラエル出身のシラ・ハースが彼女を演じる。
もともとサブラはキャプテン・アメリカのイスラエル版として考案された。初期のコミックでは胸にユダヤ民族の象徴である青い「ダビデの星」をあしらった、白いボディースーツを着ていた。肉弾戦に強い一方で、傷ついた体を癒やすパワーも併せ持つ。
「中東の複雑な情勢や愛国心を考えるなら、パレスチナ人、アラブ人、イスラム教徒はサブラを不快に思うだろう」と、サーマは言う。「しかも今はイスラエルとハマスの戦闘で緊張が著しく高まっている」
多様性がテーマの一人芝居『フリーダム・オブ・スピーチ』の上演を続ける活動家で声優のエライザ・ジェーン・シュナイダーは、こう語る。
「サブラはイスラエル人で、しかも政府に雇われてテロと戦う工作員。幅広い影響力を持つマーベルがそんなスーパーヒーローにスポットライトを当てれば、さらなる分断をあおりかねない。マーベルとアメリカは共にイスラエルの政策を支持し、喧伝していると見なされるかもしれない」