なぜ実写版『リトル・マーメイド』は中国で大コケしたのか?
Disney's China Problem
この点はサリバンも同意見で、中国人の好みに合わせた映画作りを始めなければハリウッドは中国での成功を維持できないとみる。
「もはや中国にディズニーの出番はない、とまでは言わないが、今はハリウッド全体が中国市場の特異性に気付いている。以前なら一部のシーンの手直しだけで間に合った。しかし今の中国市場は、もっとオーダーメイドの作品を求めている。そうしないと観客の好みの変化についていけない」
中国市場を諦めない
過去には「一部のシーンの手直し」が物議を醸したこともある。ディズニーも他の製作会社も、中国市場に参入するために自己検閲をしていると非難されたものだ。
例えばディズニーは1997年、若き日のダライ・ラマ14世の苦闘を描いた映画『クンドゥン』(監督マーティン・スコセッシ)を製作したせいで中国政府に嫌われ、一度は国内市場から締め出された。このときは当時のCEOマイケル・アイズナーが謝罪して矛を収めた。
そして98年の『ムーラン』の公開を許可してもらうために持ち出したのが、中国国内にディズニーランドを造るという壮大な構想だった(それを実現したのが現CEOのアイガーだ)。
ちなみに13年のパラマウント映画『ワールド・ウォーZ』も、一部のシーンを手直しさせられた。人間をゾンビに変えるウイルスの起源を議論する場面に、中国を名指しする箇所があったからだ。
パラマウントはこの箇所の削除を決めたが、それでも中国での公開は許されなかった。こんな調子だから、誰もが頭を抱えている。しかしハリウッドが、そしてディズニーがこのまま中国市場から撤退するとは思えない。
「どうすれば中国市場に受け入れられるか。今はその道を模索している段階だと思う」と語るチョウは、失地回復のためにディズニーが次にどんな作品を送り出すかを楽しみにしている。
チョウのみるところ、ディズニーには優秀な人材が山ほどいるし、伝統に裏打ちされた強固なブランドもある。だから必要に応じて映画作りの路線を変えることは十分に可能だ。
一方で、イデオロギー色の強い映画にこだわる中国共産党の姿勢がそんなに長く続くとは考えにくい。
「中国は常に変わり続けていて......決して安定はしていない。だからどんなにクリエーティブな人や業界でも、中国で長期プランを立てるのには苦労するものだ」