世界でオペラ演出も手掛ける舞台の重鎮、笈田ヨシ ── 死に向き合い充実した生を得る
2023年05月20日(土)19時00分
撮影=Sumiyo IDA (Photographer)
死への向き合い方
──笈田さんはスイスにある自殺幇助団体(スイスに行き、自殺幇助を受ける)の会員になられたと、公表していらっしゃいます。プライベートなことですし笈田さんは著名人ですし、とてもオープンで驚きました。
隠すことではないですよ。とってもいいアイデアだと思っています。保証人を選んで入会しました。毎年、会費を払っています。いざという時にはスイスに(自殺ほう助のために)自分で行くか、自分の意思がもう表明できなくなっていたら連れて行ってもらいます。そのサービスを使うか使わないかは別にして、誰だって死ぬのですから死ぬ時の準備をちゃんとしておけば、平安に(不安なく)生きることができるんじゃないかと、僕は思っていて。遺言書も10年前に書きましたし。死については、なんとなく思ったことをメモのように綴っています。
【笈田ヨシ氏が綴った私的なメモより】
人生において、我々は自分という役を演じています。この世でどうやって生きるかを映画のシナリオのように書いているのです。そしてその脚本を読み返して、自分はこんな人生を送りたいのかと自分に聞いてみます。その答えに満足できなければ、脚本を書き直さなければなりません。過ぎ去った1時間がもしこの世での最後の1時間であったとしたら、その1時間は満足できるようなものであったであろうかと自問してみます。
今こうして生きていても、自分のことはよく知らないのです。
死の瞬間には自分の能力の範囲内で、現世で与えられたものをすべて使い、可能なことはすべてやったと感じたいものです。後悔なしに死ぬことができると何時でもそう言えるような、そんな人生を生きたいものです。
今こうして生きていても、自分のことはよく知らないのです。
死の瞬間には自分の能力の範囲内で、現世で与えられたものをすべて使い、可能なことはすべてやったと感じたいものです。後悔なしに死ぬことができると何時でもそう言えるような、そんな人生を生きたいものです。
死ぬ直前は苦しいこともあるかもしれないけれど、僕は、死ぬ瞬間はとても気持ちがよく、すごく素敵なものだと思って楽しみにしています。心理学の分野で、仮死状態(臨死状態)を経験した人たちのインタビューが記録されています。それを読むと、自分の姿を見ていた、空洞を進んでいた、気持ちが良かったという経験ばかりで、苦しかったという人は誰もないんですよ。死後の世界があるかどうかは知らないけれど、その辺りへ向かう途中はとても気持ちのいいものだと思っているので、死が怖いとは僕は感じません。