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世界でオペラ演出も手掛ける舞台の重鎮、笈田ヨシ ── 死に向き合い充実した生を得る

2023年05月20日(土)19時00分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

戦争は人間が動物であることの証

──笈田さんは子どもの頃に戦争を経験し、目の前でご実家が空爆に遭って焼失したりしたとのこと。今、ウクライナ戦争から1年以上が経ちました。日本は防衛費を増額することに決めました。戦争について、どのようなご意見をお持ちですか?

人間も動物の一種だと、この頃つくづく思いますね。動物は自分の家族を守るために敵に抵抗するし、自分の生活範囲を守り、できれば広げようとします。食べ物も、植物のほかに自分より弱い動物を餌とする。動物は絶えず戦い、殺し合いをしています。

人間も動物と同じように牛や豚を殺して食べて、自分が住んでいる所を他人に侵されないよう家族を守り、自分の社会を守るために戦争するわけです。また一方、人間は動物と違って、そういう行為をすべて捨ててしまおう、平和を優先しようと願っているけれども、やはり自分の住む家を守り、食物を確保しなくてはなりません。人間は理想だけでは生活できないですから。ただ、そのためにどうするか、その具体的な方法論は僕にはよくわかりません。

昔から、平和であった時代というのはなく、いつも、世界のどこかで戦いは起こっていたのです。人間が動物の一種である以上は、絶えず戦いはある。戦いが一切なくなるということは、人間が動物ではなくなった時でしょう。悲しいかな、人間も動物であることを認めないと仕方がないのでしょうね。

【笈田ヨシ氏が綴った私的なメモより】

我々の体は有機生命体です。有機体であるがゆえに壊れやすく、いつ死んでもおかしくないのです。それは歳には関係ありません。そしてもし、もう1日生きられるとしたら、それは自然が我々に偶然に与えてくれたチャンスだと思います。
余命の人生から価値あるものを最大限に受け取れるように、粘り強く努力するための直感力を養うべきだと思っています。過ぎ去った時間を眺め、それに判断を下すことなく、次にやって来る時間からより多くのものを見付け出したいものです。

*インタビュー前編はこちら


笈田ヨシ氏笈田ヨシ(おいだ よし)
1933年生まれ、兵庫県出身。パリに拠点を置く。慶応義塾大学で哲学の修士号を取得。同大学在学中、文学座に入団し、三島由紀夫とも仕事をする。劇団四季を経て、1968年、ロンドンでピーター・ブルック(1925-2022年)演出の『テンペスト』に出演、1970年にはブルックが設立した国際演劇研究センター(CIRT)に入り、イラン、西アフリカ、米国での公演を果たした。その後、改名した同センター(CICT)への所属を機に、活動の拠点を国外に移す。テレビ、映画、現代劇に出演するほか、数多くの演劇やオペラの演出も務める。
1992年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエ、2007年に同オフィシエ、2013年に同コマンドゥールと3等級すべてを受勲。師と仰いだブルックとの信頼関係は厚く、ブルックに「ヨシは友人であり、師である」と言われていた。
公式サイト http://www.yoshioida.com/


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com


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