ケイト・ブランシェットが怪演、天才女性指揮者の「栄光と闇と狂気」
An Enigmatic Genius
壮大な「サイコドラマ」
忠実そうだが野心的なアシスタントのフランチェスカ(ノエミ・メルラン)は、あの嫌みなメールの送り主なのか。
ベルリンフィルの第1バイオリニストでもあるシャロン(ニーナ・ホス)との愛と悩みに満ちた結婚生活。女性音楽家の奨学金プログラムを共同運営する寄付者、ターを追い落とそうとしている副指揮者、ターがかつて目をかけていたクリスタ・テイラーなど、ターと敵対する人々が複雑に絡み合う。
自分に会いたいとすがるクリスタを、ターは若い彼女の精神的な安定のためと言って無視する。その後、クリスタが自殺したという知らせが入り、彼女を指導していた時期について審問が行われることになると、ターはアシスタントにメールの履歴を削除するように指示する。
一方で、シャロンとの結婚生活はぎくしゃくし始め、若いロシア人チェリストのオルガ(演じるソフィー・カウアーの本職は音楽家だ)がターの新しいお気に入りになる。交響曲を練習するオーケストラのセッションは、いかにもマーラーらしい壮大なサイコドラマと化す。
ある日、ターは顔を負傷して現れ、通り魔にあったと言い張る。そして、来る公演で重要なソロにオルガを抜擢し、第1チェリストは恨みをのみ込んでほほ笑む。ターの人生の人間関係は、娘への愛を除いて、全てが取引なのだ。
この映画が、才能はあるが悪意に満ちた女性の転落を描く道徳的な寓話なら、映画評を書くのは簡単だっただろう。
しかし、このヒロイン(アンチヒロインなのか?)が自分より力の弱い人々(つまり、ほぼ全ての人)に対して、よく言えば非倫理的、悪く言えば違法な行動を長年続けてきたことへの反動に直面すると、疑問はどんどん増えていく。
ターは本当は何を非難されているのか。その疑惑には彼女をクラシック界の頂点から追放するほどの信憑性と深刻さがあるのか。ジュリアード音楽院の教室での対立を、ターが思っていた以上に虐待的で偏狭に見えるように編集された動画が出回ったことは、魔女狩りなのか、それとも告発に必要な「再解釈」なのか。