大ヒット! 新アルバムは歌姫テイラー・スウィフトが眠れない真夜中に刻んだ、成長の軌跡
The Right Kind of Concept Album
「結婚するのか」と繰り返し聞く人々にとって「女性は尻軽か、妻のどちらかだけ」という歌詞からは、苦闘の正体は性差別だというサブテーマも浮かび上がる。
聴き返すうちに、本作で重要なのは全体的な響きやひねりのあるアイデアだと思えてきた。すぐには気付かなかったが、新アルバムからの第1弾シングル「アンチ・ヒーロー」は「ME!」的な自己中心主義への直接的反論に聞こえなくもない。
「アンチ・ヒーロー」は自分が抱く不安を最も率直に表現した曲の1つだと、本人は話している。とはいえ、ツアー中の大物歌手を怪物に例えるユーモラスな側面もある。
歌声を操る能力がさらに広がったこともうかがえる。「怪物」について歌うくだりでは、千変万化な天才イギリス人アーティスト、ケイト・ブッシュをかすかに思い起こさせるファンタジックな声音を披露。その直後、いかにもアメリカ人的な口調に転じる。
「年は取っても、賢くなっていない」と吐露するこの曲は、多くの元キッズスターが陥るジレンマを描いている。過去のスウィフトに懸念やいら立ちを感じていたのは、まさにそのせいだ。表現力にあふれる才能と、甘えた世界観の落差が大きかった。
7作目のアルバム『ラヴァー』と同様、『ミッドナイツ』は過渡期に位置する作品かもしれない。それでも、スウィフトが脱皮しつつあることを再確認させてくれる。
午前3時に追加発表された7曲のうちの1曲「ウッドゥブ・クッドゥブ・シュッドゥブ」も、以前よりはるかに完成度が高い。
十数年前に失った信仰への郷愁を題材にする一方で、良い面も悪い面もあるこれまでの体験こそが今の自分をつくったと語る。
7曲を加えた「3AMバージョン」の幕を閉じる「ディア・リーダー」では「アンチ・ヒーロー」と同様に、テイラー・スウィフトというペルソナは決して信用できない語り手だと告白している。
「ばらばらになりかけている人間のアドバイスを聞いては駄目」。そう歌うスウィフトの言葉は正しい。だが夜ごとに、一歩ずつ自分を取り戻している彼女には、心を開いて耳を傾ける価値がある。
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