大ヒット! 新アルバムは歌姫テイラー・スウィフトが眠れない真夜中に刻んだ、成長の軌跡
The Right Kind of Concept Album
本作は、わずか2年ほどの間にスウィフトが発表した3作目のアルバムだ(テイラーズ・バージョンと題した過去作再録版も含めれば5作目)。
前2作『フォークロア』と『エヴァーモア』は、新型コロナのパンデミック中に制作。
アートロックバンド、ザ・ナショナルのアーロン・デスナーや、長年プロデューサーを務めるジャック・アントノフとのリモート共同作業を中心にして生まれた、より飾り気のないアコースティック寄りの作品だ。
ポップ路線に回帰して
この2作は、自分の日常を歌う10代のカントリー歌手として出発したスウィフトが、自伝的で独りよがりともいえる従来のスタイルから一皮むけたアルバムでもあった。
その後に登場する最新作が、より現代的なポップサウンドに回帰するのは目に見えていた。今や、大観衆を前にライブをする日々が戻ってきたのだから。
とはいえ、2019年に彼女がヒットさせたポップソング「ME!」が、退行ムードにうんざりさせられる1曲だったことを考えると、この路線にはあまり期待が持てそうになかったが......。
うれしいことに、最新アルバムは「ME!」のぎこちなさと無縁なだけではない。非『フォークロア』的路線としては、目に付く欠点が一つもない初めての作品だと言い切りたい気になる。歌詞には決まり文句や混乱した部分もあるが、アルバム全体を台無しにするほどではない。
スウィフトとアントノフは今回、牧歌的ムードを離れ、新たな熱意と共にシンセサウンドの追求に立ち戻った(個人的には、さらに冒険してほしいが)。
その一方、曲作りは安定感を増している。アントノフが用いるビンテージ・シンセサイザーやスウィフトのボーカルには、過去と現在のR&Bの影響が色濃い。
残念な点は、ミドルテンポが目立つことかもしれない。そのせいで退屈な印象を与えているように、最初は感じた。
不安の中にユーモアも
アルバムの幕を開ける「ラヴェンダー・ヘイズ」は、苦闘やストレスのさなかで耐え続けてくれた恋人への感謝という本作の大きなテーマを、セクシーなグルーブに乗せてつづる。