ダイアナの苦悩はこの人にしか演じられないと思わせる映画『スペンサー』主役の好演
Kristen Stewart Plays Diana
人気子役の多くは10代で壁にぶつかるが、スチュワートはその後も着々とキャリアを積んだ。抑えた激しさを表現する才能にふさわしい作品もあった。ジョン・ファブロー監督の『ザスーラ』(05年)での宇宙人に氷漬けにされる役がいい例だ。寡黙な役、本音と違うことを言ってしまう役がうまい。注意をそらす、はぐらかす、思わせぶりな目つきをする──それらのテクニックを彼女独りのシーンが中心の本作で総動員している。
初のアクションに挑んだ『スノーホワイト』(12年)では「実に見事な演技──もちろんスチュワートを除いて」などと酷評され、同作のルパート・サンダース監督との「不倫キス」をパパラッチされた。2人がすぐに謝罪して騒ぎは収まったが、スチュワートはタブロイドの脚光を浴びる立場に逆戻りする羽目に。『トワイライト』シリーズの相手役パティンソンとの4年越しの恋については話したがらなかったからなおさらだ。
ここ数年はシンガーソングライターのセイント・ヴィンセントやモデルのステラ・マックスウェルなど有名な女性たちと交際。3年前からは脚本家で女優のディラン・マイヤーと交際、昨年11月にマイヤーからプロポーズされて婚約したことを発表した。
メディアの注目から逃れようともがいてきたスチュワートだが、自分がバイセクシュアルであることについては意外にオープンだ。以前は恋人と一緒のところを写真に撮られたくなかったが「女性と付き合うようになって変わった」という。「隠したら、受け入れていない、恥と思ってるみたいで。それで人前での在り方を変えなきゃいけなかった」。仕事についても『トワイライト』時代に比べればはるかにオープンになった。
世間が自分に抱くイメージに苦しめられ
スチュワートにとって『スペンサー』は久々の注目作で、受賞は逃したものの初めてアカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされた。世間のイメージとの複雑な関係はダイアナの苦闘とよく似ている。スチュワート演じるダイアナは堅苦しい伝統にいら立つ誤解されがちな因習打破主義者だ。スチュワート自身ショービジネス界のプリンセス扱いされることに戸惑っていたのは誰もが知っているだけに、素晴らしい演技が光る。
主演女優の独り舞台なのはラライン監督の『ジャッキー』(16年、主演ナタリー・ポートマン)と同じ。ダイアナ以外の登場人物のほとんどがかすんでしまうほど彼女の心理が的確に描かれ、観客はそれをとおして彼女を知る。