「動物好きで、一緒にいて楽しい人」──肖像画家が語るエリザベス女王の素顔
I Painted the Queen
遅刻した女王の謝罪時には既に舞い上がっていたと語るフィリップス ©JULIAN CALDER/FINE ART COMMISSIONS
<ユーモアのセンスで自分の役割や王室の特異さを受け入れ、それをも楽しむ人。肖像画制作で女王と共に過ごした画家が感じた、その人柄と特別なまなざし>
イギリスのエリザベス女王の到着は少し遅れた。女王が気まずい思いなのはすぐに分かった。
2011年の秋、肖像画制作の最初のシッティング(座ってポーズをとること)で女王が最初に発した言葉は、遅れたことへの謝罪だった。
もちろん、私に謝ったわけじゃない。そんなことはあり得ない。女王は遅刻の理由も口にしたが、私は覚えていない。女王の前で、もう舞い上がっていたから。
女王の肖像画は3回手掛け、シッティングのときの記憶はいつも曖昧だが、女王について何よりもよく覚えているのはその真っすぐな視線だ。
私が描いた女王の肖像画は、特に個性を強調するような作品ではない。でも、女王の灰色がかった青い瞳に宿る、あの忘れ難いまなざしは、絵の中に捉えたいと思った。
到着が遅れようとも、女王の存在感は圧倒的だった。輝かしい礼服に身を包んだ女王が現れたとき、動悸が激しくなり、手が汗だらけになったことを覚えている。ありがたいことに、すぐにアドレナリンが出て、絵筆を手にすると目の前の仕事に専念することができた。
一緒にいた短い時間で、女王の人柄を少しでも理解できたかどうか、自信はない。ただ言えるのは、女王はその場にいる私たちを楽しませ、自分自身も楽しもうとしていたことだ。本当に、女王は一緒にいて楽しい人だった。
女王は動物が好きで、馬や犬の話をすると表情がとても明るくなった。最初の肖像画に、女王の生活の一部になっている4匹の犬を入れたのは、それが理由でもあった。