元トランプ選対本部長コンウェイの「信憑性の低い暴露本」超大作
The Nasty Woman
だがこれは災難の始まりにすぎなかった。人種差別問題に触発された長女クローディアがTikTok(ティックトック)でリベラルな発言を繰り返し、21年には母親の虐待をにおわせる投稿をしたのだ。コンウェイは回想録で娘の反発には触れず、親の許可なく15歳の娘に接触した新聞記者に怒りの矛先を向ける。
本題を避けるためにさまつな点に怒りをぶつけるのは、いつもの手口だ。議論をうやむやにできないときはスルーする。「ボーリンググリーンの虐殺」なる架空の事件をでっち上げて移民に汚名を着せた件も本著では取り上げない。
もっとも、17年の「もう1つの事実」には触れている。スパイサーがトランプの大統領就任式は歴代最多の観衆を集めたという虚偽の発言をして物議を醸すと、コンウェイは「(発言は)もう1つの事実」だと擁護し炎上した。回想録では、あれは「もう1つの情報」と「追加の事実」がごっちゃになって口から出たものだと弁解している。
トランプがスパイサーに噓を強要したにもかかわらず、コンウェイはこの件を報道官が「勝手に犯した失態」──自分が尻拭いをさせられた男のヘマ──と片付ける。
コンウェイは随所で「男のエゴ」、とりわけ共和党系政治コンサルタントの暴走を非難する。いわく「コンサルタントたちは結託して甘い汁を吸い、政界の墓場には彼らに食い物にされて落選した政治家の死体が並んだ」。
政界で人脈を広げるために世論調査会社を設立した際に妨害したのはこうした男たちだとも、証言している。
フェミニストでないわりには、生まれつき優遇される男性への憤懣が頭から離れないらしい。コンウェイの筆致が最も冴えるのは「私をバカにして足蹴にした、仕事ができないくせに過大評価されている男たち」に牙をむくときだ。
結果的に献身を勝ち得たのだから、彼女の能力を認めたのはトランプらしからぬ英断だった。だが献身が純粋だったかどうかは分からない。
次の大統領候補を予想
いち早く暴露本を書いた元大統領補佐官のクリフ・シムズによれば、コンウェイはメッセージアプリで記者に情報をリークしていた。トランプを「世話の焼ける子供」と評したこともあったという。