なぜ女性だけがこれほどの苦難を...中絶反対派こそ見るべき映画『レベンヌマン』
A Film for Right Now
中絶が違法だった1960年代のフランスで望まぬ妊娠をしたアンは女性の「選択の自由」のために闘う IFC FILMS-SLATE
<望まない妊娠をした若い女性が、1人きりで中絶を模索する壮絶な旅を描いたフランス映画『レベンヌマン(事件)』>
人工妊娠中絶の手術を受けるのが困難な時代または状況で、望まない妊娠をした女性が女友達と2人きりで、たくましく前へ進もうと奮闘する--そういう設定は、今や映画のサブジャンルの1つとして確立されたと言っていい。
顧みれば、その先駆けとなったのは2007年に公開された傑作『4ヶ月、3週と2日』だ。まだ共産主義時代のルーマニアの首都ブカレストを舞台に、ルームメイトの女子大生2人がひそかに中絶手術を受けようとして、さまざまなトラブルに巻き込まれる物語だった。
新しいところでは、20年のエリザ・ヒットマン監督作品『17歳の瞳に映る世界』。現代のアメリカを舞台に、妊娠してしまった10代の少女が従姉妹と2人でなんとかお金を工面し、両親の同意がなくても中絶手術を受けられる州まで旅する物語だった。
一方でナタリー・モラレス監督の『プランB』やレイチェル・ゴールデンバーグ監督の『アンプレグナント』などは、「中絶権」の行使がますます難しくなってきた今のアメリカ社会を、ロードムービー仕立てのコメディーで巧みに描いてみせていた。
レズビアンの禁じられたロマンスを描いたフランス映画『燃ゆる女の肖像』(セリーヌ・シアマ監督、19年)も、そのサブプロットには中絶の問題があった。舞台は18世紀のフランス北西部ブルターニュ地方。愛し合う2人の女性が妊娠してしまった侍女のために、できるだけ安全な中絶手術をしてくれる医師を探す話だった。
助けてくれる人は誰もいない
そして昨年11月、フランスで衝撃的な作品が公開された。フランスのアニー・エルノーによる自伝的小説をフランス人女性監督のオドレイ・ディワンが映画化した『レベンヌマン(事件)』だ。
主人公は、若くして望まない妊娠をした聡明な大学生のアン(アナマリア・バルトロメイ)。彼女には一緒にロードトリップをしてくれるバディ(相棒)も親類も、理解のある雇用主もいない。舞台は1963年のフランスの田舎町。中絶手術を受けようにも、助けてくれる人は誰もいない。
友人や医師たちに助けを求めても、ことごとく断られた。やむなく自分を妊娠させた若い男(別に恋人というわけではなく、ただ知り合いだっただけの学生)に連絡するが、あいにく彼は、アンの置かれた状況の深刻さを全く理解できない。
アンは両親と良好な関係にあるように見えるが、望まざる妊娠の事実を両親に打ち明けようとはしなかった。両親が貧しい労働者で、中絶費用を工面できないのを知っていたからかもしれない。あるいは、信仰上の理由で中絶に反対されることを恐れていたか。