なぜ女性だけがこれほどの苦難を...中絶反対派こそ見るべき映画『レベンヌマン』
A Film for Right Now
ディワン監督とマルシア・ロマノによる脚本は、アンや彼女の友人たちの世界で妊娠中絶がいかに「禁句」だったかを、最小限の会話によって表現している。
当時の女性たちは、中絶という語を口にすることも恐れていた。法律上は、中絶を望む女性に手を貸すことも犯罪とされていた。それに、当時のカトリック教徒の社会では、若い女性が中絶という選択肢があると知っているだけでも、とんでもなくスキャンダラスなことだった。
だから、この映画では登場人物の誰一人として「妊娠中絶」という言葉を使わない。みんな、究極の「解決策」について小声で話すだけで、あとは知らないふりをする。
この映画は昨年、ベネチア映画祭で金獅子賞を受賞した。映画を通して、フランスの女性たちは自分たちが中絶の権利を獲得するまでの長くてつらい日々を追体験してきた。アメリカが「ロー対ウェード判決」で女性の中絶権を認めたのは1973年だが、その2年後まで、フランスでは中絶が違法とされていた。
そして今年、フランスでは中絶可能な時期が妊娠12週以内から14 週以内に延長された。ただし4月に再選を果たしたエマニュエル・マクロン大統領はこの延長に反対し、中絶の権利は大事だが、それは「女性にとっての悲劇」だとも語っていた。保守派の支持を得るための発言だったのだろうが、本当に大事なのはそんな「悲劇」を招かないで済むような生殖医療のシステムを確立することだ。
1人で苦難に立ち向かうことに
『レベンヌマン』(英題『ハプニング』)は今年5月6日にアメリカでも公開された。その直前には、米連邦最高裁が近いうちに、「ロー対ウェード判決」を覆す可能性が高いことを示す文書が暴露されていた。良くも悪くも、絶妙な公開のタイミングだったと言える。
今もアメリカのあちこちにアンと同じように若くして望まない妊娠をし、どこかに別の選択肢はないかと模索している女性がいるはずだ。もしも「ロー対ウェード判決」が覆されたら、彼女たちの前途はもっと厳しくなる。
妊娠中絶が、いまだに「禁句」の場所も多い。そうした場所で中絶を望む多くの女性たちも、恐怖に怯えながらも不屈の精神を持ったアンのように、あらゆる壁に1人で立ち向かうことになるだろう。
ますます多くの女性たちをそんな耐え難い状況に追いやろうとしている判事や議員にこそ、この映画『レベンヌマン』を見てほしい。決して目をそらさず、最後まで見てほしい。
人類の半分を占める女性たちの心に傷を負わせ、人生を一変させる経験を強いようとしているのだから、せめてそれぐらいはするべきだ。
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